ミトコンドリアで探る人類史
でかいタイトルで。
いや、日本人の歩みをたどるにも、モンゴル帝国を語るにも、結局は世界の人類史をたどらなきゃならんのです。
モンゴルが遺伝的にどうなのかとか、説明もしないで歴史を語っても繋がりがわからないわけで。
でもあまりツッコみすぎるとY染色体と同じように大変なので、簡潔にまとめていきたい。
まずはミトコンドリアによってなにがわかるのか、簡単なおさらいを。
以前説明だけはしたように、ミトコンドリアを調べると、今度は女の移住の歴史がわかる。
そして面白いことに、これがどうも男とはあちこちで大きく違う。
そしてやっぱり日本でも状況は違っていた。
ミトコンドリアのほうが体のあちこちにたくさんあって、遺跡人骨からでも採集しやすい上に、ヒトゲノムよりはDNA量が少なくて、しかも男もミトコンドリアは持っていて、研究がしやすかったため、ミトコンドリアによる人類史の研究のほうがY染色体の研究より先行した。
そしてその段階では日本人と大陸のアジア人との違いがあまりわからず、これほどユニークな存在だとはわからなかった。*1
おっと、あんまり語り出すとまた長くなる。
さっさと世界の状況を説明しよう。
これが世界のミトコンドリアハプログループの状況だ。
少し古い画像とデータだけど。なお、今回から引用物の詳細だとかは、後からまとめて書くことにした。今後は引用物多すぎていちいち大変なので。
元の画像の色分けがあまりにも規則性が無くてわかりにくかったため、色はいろいろな条件を踏まえた上で塗り替えた。
このために自分で作った、色つきのミトコンドリアの系統樹も見てもらおう。地図と順番が違うが、今後出す別のグラフでもこの配色を使うため、意識的に整理している。
まず、今は最初の図より分類が多い。
灰色のL系統はほぼアフリカ。アフリカ以外ではあまり出てこず、これはY染色体のA・Bと似た状況。
しかし出アフリカした後、分岐の仕方で、Y染色体との最大の違いが現れる。
ミトコンドリアの系統樹は、出アフリカした後、M・N・Rの三つの系統に大きく分かれ、それが世界の三大勢力になっているのだ。*2
そこでだいたいの方向性として、Mに赤系統、Nに緑系統、Rに青系統を割り当て、この元の系統に暗めの色を割り当てた。*3
これで地図を見ても、三系統の勢力範囲がわかりやすくなっただろう。
東の赤のM系統と、西の青のR系統、そしてそれらの脇に現れる緑のN系統に注意して見て欲しい。
M系統は基本的に東のアジアに拡がった。ただしアフリカにもいる。Qはニューギニアにいる。
N系統はR系統の祖先でもあり、北米で繁栄した黄色のAも含み、世界に散っている。なお最初の図のオーストラリアに多いNの一部は、SとOに分類されている。
R系統は東南アジアまで進出し、その後は西に大きく拡がっている。ただしB・F(アジアより東)とP(オセアニア)は東で、紫系統を割り当てた。
アメリカ大陸にいるのは、M系統で赤のD、桃色のC、N系統で黄色のA、黄緑色のX、R系統で青紫のBで、ここでも三大系統すべてが揃っている。*4
また他に女と男の違いとして、男より早いタイミングで勢力が固まって現在に残っている、というのもある。以前説明したときも奇妙な人口変化(変異量変化)の図を付け加えたが、男は女のデータに見えてこない不思議なボトルネックがあったり、比較的新しい時代になってから分岐が増えていた。
しかし女のミトコンドリアハプログループは、出アフリカ後すぐに三大系統が登場し(他の系統もいたのかも知れないが)、この三系統がそのまま素直に分岐し世界に拡がって繁栄して現代の状況に繋がっているのだ。
ただしこれはミトコンドリアハプログループが、人類史に大きく関係するような時代以前に一通り揃ってしまっているということでもあるため、状況のわかりにくい場合も出てくる。たとえば、日本と中国などの違いがあまり見えないように。
今回の全体的な話はだいたいこれぐらいにして、次回はさっさと日本やモンゴルあたりのミトコンドリアの状況を説明しよう。
- 今回の引用物はマクドナルドさんの世界地図。以前見たことがあって、元はどこにあるのかと思ってた。
http://www.scs.illinois.edu/~mcdonald/
元はこんなピンと来ない配色だった。Y染色体の地図もあるけど、これはデータが古い。
なお、この地図も、他のデータを見るときでも、どこにデータの脱落があるかは重要なチェックポイントになる。
問題はデータの古さだけではない。
世界中満遍なく網羅しているように見えて、大事な出アフリカコースのアラビア半島のデータがない(実はアラビア半島にも、アフリカ勢のハプログループが、男も女もはみ出して分布している)とか、どうも東南アジアが弱いとか、インドも位置の重要さと人口の多さを考えればここも地域別とかのデータが欲しいとか、必要なものがいろいろ見えてきて、探さなきゃ!となったりもするのだ。
- ミトコンドリアの系統樹については、とりあえず英語版のwiki行って、Ian Logan's Mitochondrial DNA Siteと、Mannis van Oven's PhyloTree.orgを参照。ここらへんは今後もちょくちょく参照しますよ。