ヒトが初めてオーストラリアに到達したのは約65,000年前だった
出アフリカにも関わる重要なニュースです。
必ず海を越えていくことになるオーストラリア移住ルートで、いままでより古い年代が出て、またトバ・カタストロフに近づいた。
【考古学】ヒトが初めてオーストラリアに到達したのは約65,000年前だった | Nature | Nature Research
ヒトがオーストラリア北部に初めて到達したのは約65,000年前だったとする新たな考古学的証拠を示した論文が、今週掲載される。これは、過去にオーストラリア北部の同じ遺跡で実施された発掘調査によって推定された年代よりも古く、オーストラリアの大型動物相が絶滅する前だったことになる。
(中略)
今回、Chris Clarksonたちの研究グループは、Madjedbebe岩窟住居での新たな発掘作業の結果、2015年の発掘で見つかった人工遺物が高密度で分布する層の最下層から約11,000点の人工遺物(剥片石器、砥石、知られる限りで最古の刃先が研削された手斧など)が出土したことを報告している。Clarksonたちは、こうした人工遺物が発見された位置を注意深く評価し、人工遺物が発見された堆積物の年代と対応するようにした上で、高度な年代決定法と用いて堆積物の年代を推定した。Clarksonたちの解析結果では、この遺跡が層序学的に正確なことが確認され、深くなるほど古くなる一般的なパターンがあることが明らかになり、これまでより正確な年代決定が行われた。発掘現場で最も深い部分の年代は、約65,000年前と推定され、この地域にヒトが初めて居住した年代が約5,000年も昔にさかのぼった。
ニュースがあったんで追加
論文
Human occupation of northern Australia by 65,000 years ago
これは反応が問題でしょう。こういう年代は必ず誤差もある物で。
サイエンスの記事。hints(ほのめかす)は少し微妙さを含んだ表現だが、可能性は認めている。
BBCは、主張を意味するのかカッコ付きで表現。中身ではsuggest(示唆する)などで、これも少し微妙だが可能性は認めている。
newscientist。may have(かもしれない)で、微妙だが可能性は認めている。
ここで書かれている他に証拠がないことに関しては、古い証拠は残ることも見つけることも難しいため、証拠が未発見でも不在証明にならないことを思い出してもらう必要がある。
逆に、どれだけ信じられなくてもそれまでの定説を覆していても、(正しく)発見できた証拠は存在証明になるのだ。
ただし、年代推測の問題はいつでもあるし、いまいち証拠に決め手が欠ける場合もあるだろう。また時には、その手法に疑問のある場合もあるかもしれない。(なお今回、手法にケチを付けるような論調は見てない。一部を飛ばし読みしただけだが、Natureもリリースに「注意深く評価」と書いてる)
そういう場合、他の証拠が揃ってくるのを待ったり、その他いろいろな理由をつけて証拠を無視したりすることはある。(でも、自説に都合が悪いからといって、権力を悪用して(時には忖度で)論敵を潰しにかかったりしないでね)
個人的には、出アフリカってトバ・カタストロフより前に遡る可能性があるんじゃないか、とも思う。もしそうでも、滅んでしまったり証拠が残ってくれない、学術的にはほぼ証明不可能な可能性もある。
トバ・カタストロフはその結果として、はっきりと遺伝学的ボトルネックや考古学的遺物の減少(から増加する)状態を作ることは大いにあると考えられる。つまり学術的には、トバ・カタストロフの後で人類が世界に拡がったように見えるだろう。
しかし実際には、出アフリカがぴったりトバ・カタストロフのタイミングに合うと考えるのは、それほど筋の通る話ではない。
ただ、あまりに特殊すぎる天変地異は、好奇心を刺激して行動のきっかけになりうるのかも知れないが。
ちなみに、大噴火はその音まで凄まじく、極端に離れた場所にまで届く。これを火山学用語で「空振」という。(正確には音でなく空圧。爆発音の元は爆発の衝撃波であり、その振動の周波数はヒトの可聴範囲に収まらず、速度も音速を超える部分がある)
地球を3周した「世界で最も大きな音」とは? - GIGAZINE
イヌは4万年前の単一起源か
イヌのニュースも反応しておこう。
結論としての意外性は(以前「オオカミ、ヒトに出会う」という記事をまとめてる自分としては)無い。また年代はあってもその場所は示さない。
しかし遺跡の骨を調べたり、データはたくさん揃えてる。(ただ、日本の犬がいないのは残念だ)
米ストーニーブルック大学(Stony Brook University)などの研究チームが実施した今回の最新研究によると、古代のイヌは約4万年前にオオカミから最初に分岐したことが、DNA分析で明らかになったという。この分岐が人の存在をきっかけに起きた可能性が高いことも分かったが、世界のどこで起きたかは特定できなかった。
研究チームはまた、イヌの家畜化が「受動的な」プロセスをたどった可能性が高いとしており、人が野生のオオカミを積極的に手なずけたのではなく、オオカミが餌を探し求めて狩猟採集民の野営地に近づいたのが始まりと思われるとした。「この試みにおいては、より従順で攻撃性の低いオオカミほど多くの成功をおさめ」、そして人との距離が縮まった可能性が高いと説明している。
研究チームによると、原初のイヌは、2万年前までに地理的に二分したという。片方が東アジアの犬種に、もう片方が欧州、アジア中南部、アフリカなどの犬種にそれぞれ枝分かれしていったとされる。
Natureの紹介文。
【遺伝】現代のイヌの単一の地理的起源 | Nature Communications | Nature Research
論文
図にちょっと説明を付けておく。最後の分岐図の色は、一つ前のNGSadmix clustering図*1の色に対応してる(ただし赤の遺跡イヌ以外)。黄色はオオカミで、紫は東アジアの犬種(正しくは東南アジアから南のディンゴ系)で、残りが20000年前に分かれたそれ外の犬種に当たる。
なおNGSadmix clustering図で、紫ばかりのボルネオやベトナムと違って、パプアニューギニアが紫と青半々で出てくる(系統に違いがある)ことは意外だった。台湾にも青はある(ここで中国南部より青が多いことにも注意)から、後の時代に台湾ルートで混血したイヌを調べたのかも知れないが。(ただし、パプアニューギニアで調べたのは村にいた野良犬(village dog)で、ニューギニアンシンギングドッグとは書いてなかった。場所からすると、別系統とされるニューギニアンコースタルドッグのほうかもしれない。これはインドのパリア犬(Indian village dogはたぶんこのイヌを指す)に似てるとされる)*2
ところで、イヌの分岐の場所がどこかわからないと控え目に書いてあるが、データ上は、一番根っこのディンゴ系統がイヌとして含まれることはコンセンサスが通ってるらしいわけだから、これもまたいつもの、周辺まで含めた東南アジア起源説になっているデータだと思われます。
(もしイヌの起源が二つあると唱えるならば、この根っこの部分が二つに分割される必要がある。しかしこれも、イヌの定義次第で成立する余地はある。根っこ部分はイヌじゃないと定義すればいいんだから。――これは別にブラックジョークではなく、遺伝学的に定義されるイヌと、考古学的証拠として明らかに違いがあると断言できるイヌは、かなり定義が違うわけです)
ちなみにサプリメントも140ページ以上もあって、こっちも図像盛りだくさんだよ。とても全部は出せないし、細かく検証する気も起きないが。
(日本犬のデータがないのは本当に残念。日本犬のディンゴ要素の強さは知りたかった。ただ、珍しく韓国の珍島犬がサプリメントの一部分析に入ってた)
日本人3554人のゲノムデータベース
日本人3554人のゲノムのデータベース(3.5KJPN)を、東北大学が作ったというニュースがあった。
ヒトゲノム、世界最大級のDBに 日本人特有の特徴発見:朝日新聞デジタル
これはもちろん東北大学の公式プレスリリースがある。こっち読んだほうがいいでしょう。
リリースの詳細pdf https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20170718_05web.pdf
中身をまとめる。
- 日本人3554人の全ゲノムリファレンスパネル(3.5KJPN)を作った。――これまでは2049人分だった。
- のべ約 329 兆塩基もの高品質な全ゲノム断片配列情報を解読。――これは全人数分で、という意味。
- 約3710万個(37,067,715)の一塩基変異(SNVs)を収載。うち約2690万個は世界各地のSNVsを登録する国際データベースにないもの(日本人に特徴的)。――これまでは約2800万個(うち1830万が日本人に特徴的)だった。
- 3.5KJPN の約32%は宮城県と岩手県以外(地域分けは母親出身地*1)。――ただし他にも東日本の都道県がある。*2
その他を除いて(総数2660)比率を計算すると――宮城岩手:56.7%、東日本その他:12.6%、中部:10.6%、西日本:20.0%――となる。(なお、地域分けの地図は二つ後の図にある)
- 日本列島内の地域集団の微細な違いは確認されるものの、他のアジア集団のゲノム情報とは、大きく、かつ明確に異なる日本列島出身者としてのまとまりが検出(確認)。――この傾向は以前の1KJPN、2KJPNでも検出されていたもの。*3
ちなみにCDXのDaiは雲南省シーサンパンナのタイ族(タイ・カダイ語族)。KHVはベトナム南部ホーチミンのキン族(いわゆるベトナム人。オーストロアジア語族)。ベトナム人よりタイ族のほうが漢民族から遠くに出るわけ。
- 3.5KJPN は、日本人の持つ 0.03%以上の SNVs をカバーする。
- これらの情報により、現在日本医療研究開発機構(AMED)が実施中の、未診断疾患イニシアチブ(IRUD)事業における疾患候補遺伝子の絞り込み性能のさらなる向上が見込まれる。
- 東北大学はデータベースも作ってる。直リンクはやめておく。*6