知識探偵クエビコ

人類史・古代史・神話の謎を探ったり、迷宮に迷い込んだり……

イヌは4万年前の単一起源か

イヌのニュースも反応しておこう。

結論としての意外性は以前「オオカミ、ヒトに出会う」という記事をまとめてる自分としては)無い。また年代はあってもその場所は示さない。

しかし遺跡の骨を調べたり、データはたくさん揃えてる。(ただ、日本の犬がいないのは残念だ)

 米ストーニーブルック大学(Stony Brook University)などの研究チームが実施した今回の最新研究によると、古代のイヌは約4万年前にオオカミから最初に分岐したことが、DNA分析で明らかになったという。この分岐が人の存在をきっかけに起きた可能性が高いことも分かったが、世界のどこで起きたかは特定できなかった。

 研究チームはまた、イヌの家畜化が「受動的な」プロセスをたどった可能性が高いとしており、人が野生のオオカミを積極的に手なずけたのではなく、オオカミが餌を探し求めて狩猟採集民の野営地に近づいたのが始まりと思われるとした。「この試みにおいては、より従順で攻撃性の低いオオカミほど多くの成功をおさめ」、そして人との距離が縮まった可能性が高いと説明している。

 研究チームによると、原初のイヌは、2万年前までに地理的に二分したという。片方が東アジアの犬種に、もう片方が欧州、アジア中南部、アフリカなどの犬種にそれぞれ枝分かれしていったとされる。

 

Natureの紹介文。

【遺伝】現代のイヌの単一の地理的起源 | Nature Communications | Nature Research

論文

イヌ系統図

NGSadmix clustering図

イヌ分岐図

図にちょっと説明を付けておく。最後の分岐図の色は、一つ前のNGSadmix clustering図*1の色に対応してる(ただし赤の遺跡イヌ以外)。黄色はオオカミで、紫は東アジアの犬種(正しくは東南アジアから南のディンゴ系)で、残りが20000年前に分かれたそれ外の犬種に当たる。

なおNGSadmix clustering図で、紫ばかりのボルネオやベトナムと違って、パプアニューギニアが紫と青半々で出てくる(系統に違いがある)ことは意外だった。台湾にも青はある(ここで中国南部より青が多いことにも注意)から、後の時代に台湾ルートで混血したイヌを調べたのかも知れないが。(ただし、パプアニューギニアで調べたのは村にいた野良犬(village dog)で、ニューギニアンシンギングドッグとは書いてなかった。場所からすると、別系統とされるニューギニアンコースタルドッグのほうかもしれない。これはインドのパリア犬(Indian village dogはたぶんこのイヌを指す)に似てるとされる)*2

 

ところで、イヌの分岐の場所がどこかわからないと控え目に書いてあるが、データ上は、一番根っこのディンゴ系統がイヌとして含まれることはコンセンサスが通ってるらしいわけだから、これもまたいつもの、周辺まで含めた東南アジア起源説になっているデータだと思われます。

(もしイヌの起源が二つあると唱えるならば、この根っこの部分が二つに分割される必要がある。しかしこれも、イヌの定義次第で成立する余地はある。根っこ部分はイヌじゃないと定義すればいいんだから。――これは別にブラックジョークではなく、遺伝学的に定義されるイヌと、考古学的証拠として明らかに違いがあると断言できるイヌは、かなり定義が違うわけです)

 

ちなみにサプリメントも140ページ以上もあって、こっちも図像盛りだくさんだよ。とても全部は出せないし、細かく検証する気も起きないが。

(日本犬のデータがないのは本当に残念。日本犬のディンゴ要素の強さは知りたかった。ただ、珍しく韓国の珍島犬サプリメントの一部分析に入ってた)

*1:Admixtureとは違うNGSadmixというツールを使ってる。

*2:この論文の最大の問題は、「village dog」が実際には何を調べてるかよくわからないところにあるか。「village dog」も系統が一種類とは限らないわけで。

日本人3554人のゲノムデータベース

日本人3554人のゲノムのデータベース(3.5KJPN)を、東北大学が作ったというニュースがあった。

ヒトゲノム、世界最大級のDBに 日本人特有の特徴発見:朝日新聞デジタル

 

これはもちろん東北大学の公式プレスリリースがある。こっち読んだほうがいいでしょう。

リリースの詳細pdf https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20170718_05web.pdf

 

中身をまとめる。

  • 日本人3554人の全ゲノムリファレンスパネル(3.5KJPN)を作った。――これまでは2049人分だった。
  • のべ約 329 兆塩基もの高品質な全ゲノム断片配列情報を解読。――これは全人数分で、という意味。
  • 約3710万個(37,067,715)の一塩基変異(SNVs)を収載。うち約2690万個は世界各地のSNVsを登録する国際データベースにないもの(日本人に特徴的)。――これまでは約2800万個(うち1830万が日本人に特徴的)だった。
  • 3.5KJPN の約32%は宮城県岩手県以外(地域分けは母親出身地*1)。――ただし他にも東日本の都道県がある。*2

    サンプル数

    その他を除いて(総数2660)比率を計算すると――宮城岩手:56.7%、東日本その他:12.6%、中部:10.6%、西日本:20.0%――となる。(なお、地域分けの地図は二つ後の図にある)

  • 日本列島内の地域集団の微細な違いは確認されるものの、他のアジア集団のゲノム情報とは、大きく、かつ明確に異なる日本列島出身者としてのまとまりが検出(確認)。――この傾向は以前の1KJPN、2KJPNでも検出されていたもの。*3

    主成分分析

    ちなみにCDXのDaiは雲南省シーサンパンナのタイ族(タイ・カダイ語族)。KHVはベトナム南部ホーチミンのキン族(いわゆるベトナム人。オーストロアジア語族)。ベトナム人よりタイ族のほうが漢民族から遠くに出るわけ。

    主成分分析(地方別)

    • 東日本は全体的には大陸から遠い。ところが大陸寄りの集団が一部含まれてる。(※もともと東日本のデータだけが多く、その分少数派も出やすくなってることに注意)*4
    • 西日本は全体的には大陸に近い。ところがこちらでも、大陸から大きく離れて出た集団は西日本だけにある。(これは沖縄かもしれない*5
  • 3.5KJPN は、日本人の持つ 0.03%以上の SNVs をカバーする。
  • これらの情報により、現在日本医療研究開発機構(AMED)が実施中の、未診断疾患イニシアチブ(IRUD)事業における疾患候補遺伝子の絞り込み性能のさらなる向上が見込まれる。
  • 東北大学はデータベースも作ってる。直リンクはやめておく。*6

 

*1:長崎と滋賀長浜の検体は西日本とした、ともある。

*2:アイヌについて何も書いてないが、後の分布図からすると、データに入れてないようだ。

*3:出雲の時似た図を見た気がしたが、左右反転で日本人が右側にいる図だった。もちろん、傾向は似てる。

*4:しかしこれは本当に古いのか、高麗移民あたりか、奥州藤原氏などの移住豪族か、ずっと新しく近年の移住者(混血)か。

*5:西日本は、各地の集団がそれぞれどう出るのか、地域性に興味がある。

*6:データに地域情報があるなら追及してもいいが、そもそも大雑把な地域も調べられなさそうで。(個人情報になるのかこれは)

オーストロネシア――熱帯動植物文化の探求・聖樹カジノキ再び

次はカジノキ(Broussonetia papyrifera、クワ科*1コウゾ属。漢字で「*2の話をまたしよう。以前のカジノキ記事の続きだ。でも、ラピタ人とブタとニワトリにも触れる。

カジノキ

まずは、そのときの論文よりちょっとだけ前の2014年12月の論文をさらっと。

約8000年前の最古の樹皮加工具(樹皮を叩いて柔らかくする石器)も、問題の地域・広西のDingmo site百色市布兵盆地洞穴遗址群で出ていた。揃うねえ。

The oldest bark cloth beater in southern China (Dingmo, Bubing basin, Guangxi)

樹皮加工具地図

*1:カジノキは葉っぱがクワに似ており、「」という漢字も三つに割れた葉っぱが元のようだ。

*2:穀物の「」とは微妙に違うが同音。特に手書きだと文意でしか見分けられない気がする。

続きを読む