原発事故は予見できたか?
これだけはどうしても言わなければならない。
予見できなかったという考えは、完全に論理が転倒している。
一方、首藤(しゅとう)伸夫・東北大名誉教授(津波工学)は「津波が起きた後で、予見できたと言うのは簡単」と、確証を持って予見するのは難しかったとの見方を示す。東日本大震災前の06年、政府の中央防災会議が福島沖の津波地震を「十分な知見がない」として防災対策の検討対象から外したことを引き合いに、「発生確率が低い津波に対し、国が対策を取らないのに東電が(対策に)投資すると言っても、株主の説得は難しいのでは」と話す。
この首藤(しゅとう)伸夫・東北大名誉教授(津波工学)の、株主の論理は、完全に論理が転倒してる。完全に間違ってる。
「対策は取らなければならない」という決まりにして、その行動を法的に支持しなければならないのだ。
この口実があるからこそ、株主を説得できる。
この口実がなければ、そもそも外国にいて日本に住んでいない場合もある株主を説得できないだろう。
そこで「対策を取らなくて良い」などという責任逃れの免罪符を与えて、対策を取らないことを積極的に推進してはいけない。
(実は外国の株主は、「対策を取らせないようにして日本を危険にする」という選択を取ることも出来るわけだ)
こんな免罪符を発行したら、社会は崩壊してしまう。あり得ない。
これはモラルハザードだ。
ミイラネタ――その後のナショナルジオグラフィック巡り
というか死体ネタというか。
少し前の物だが、遺伝子解析の、別のミイラネタを見つけた。
【遺伝】古代エジプト人のミイラのゲノム解析 | Nature Communications | Nature Research
この論文の中で、Johannes Krauseたちの研究グループは、エジプト中部のアブシール・エル・メレク遺跡から出土した3体のミイラ(それぞれプトレミー時代以前、プトレミー時代、ローマ時代のものとされる)に由来するゲノムワイドのデータセットだけでなく、ミトコンドリアゲノム(90件)を新たに調べた結果を示している。そこで分かったのは、古代エジプト人と近東人(西アジアと中東に居住する人々)との遺伝的類似性が高いということで、現代のエジプト人に見られるサハラ以南の人々の遺伝的要素は、最近加わったものであることも明らかになった。ただし、この遺伝的データがエジプト中部の単一の遺跡から得られたものであり、古代エジプト全体を代表していない可能性のあることをKrauseたちは指摘している。
今回の研究は、古代エジプト人のミイラのDNA解析として初めてのものではないが、Krauseたちは、今回の研究で最新の塩基配列決定技術が用いられ、それによって取得されたデータの起源が古代のものであることを確認するための信ぴょう性評価が行われたことから、初めて信頼性の高いデータセットが得られたという見方を示している。
なお、プトレミー時代とはプトレマイオス朝(紀元前306年 - 紀元前30年)のことだ。
こっちには時期が明確に「紀元前1400〜紀元400年に生きた人々のミイラ151体のサンプルから、90のミトコンドリアゲノムと3つの核ゲノム」*1と書いてあり、次のコメントがある。
しかしチームは、もっと後になってエジプト人のゲノムが変化していることを発見した。「サブサハラ(サハラ砂漠より南の地域)起源の遺伝子が、次第に増加していました」と、マックス・プランク研究所のステファン・シッフェルスは言う。「おそらく、約1300年前に始まった奴隷交易を含む、ナイル川の通商の増加によるものでしょう」
論文
次の図のaは古い順に並んでる(右二つが現代)ミトコンドリアデータ。
ちなみにY染色体ハプログループ*2も、ゲノムワイドデータを調べた3体分がある。同時にミトコンドリアも年代測定値もあるわけだから、古い順に並べておこう。
- JK2134:Y-J、mt-J1d、cal BC 776-569
- JK2911:Y-J、mt-M1a1、cal BC 769-560
- JK2888:Y-E1b1b1a1b2-V22、mt-U6a2、cal BC 97-2
ちなみに、ハプログループJは大雑把すぎるが、E1b1b1a1b2-V22はエジプトのデルタ地帯に多い。
ミトコンドリアは、J1d中近東から地中海・M1a1アフリカ・U6a2エチオピアやエジプトなど
ついでにその他ミイラのニュース。
ミイラになるのはヒトだけじゃない。そして天然物も多い。
コウモリの糞の保存効果は知らなかった。
ミイラ研究者のアーサー・C・オフデルハイデの著書『The Scientific Study of Mummies(ミイラの科学的研究)』によると、米国ネバダ州のラブロック洞窟で見つかった多数の鳥のミイラは、コウモリの糞によって作られたという。さらに、同洞窟からは人間のミイラ3体も発見されている。
コウモリの糞が動物の体を覆い尽くすことで、酸素に触れることがなくなり、保存状態の良いミイラができるのだろうと、ギル=フレルキング氏は説明する。
前回の記事のSima de los Huesosの地層挿絵にも、訳さなかったがどんな洞窟でも定番の"Bat guano clays"=コウモリの糞(の粘土)はあった。石灰岩(limestone)だけじゃなく、これも大きな意味があったわけだ。
ちなみに、エジプトには桁違いな数の大量の動物のミイラがあるそうだ。これだけ数があれば、(破壊されてる物も多そうなことに目をつぶれば)かなりの情報が得られるはず。(自分の興味があるのは特にイヌ・ネコだが)
伝染病だってわかる。
天然痘は意外にも新しい病気だったようで、1588年までしかたどれないという。
ところで、今日(2017/6/28)ナショナルジオグラフィックで一番目を引いたのは次のニュースだ。ただし、読んだ後の後味が悪くてデザートが欲しくなる。
この問題、イヌがイヌを食べるのかという問題でもあるよねえ。親犬が死んだとき、腹を空かした子犬は親を食べるのか。生きる可能性を考えると自ずと答えは見えてきそうで。(と自分で書いて気分が悪くなる)
次のはミネラル摂取の要求だろうと思うが。(記事にもそう書いてある)
シカに限らず、ウシやゾウなんかにもいろいろとミネラル摂取の習性はある。
エゾシカの餌選択とミネラル要求性--PRO NATURA FUND
必須ミネラルはだいたい体重に比例した量が必要なわけだから、たとえば(草食の)恐竜にもこのたぐいの習性は必要だったはずだ。
というわけで、多少は口当たりのいいデザートを探したのさ。
結局は最初から最後まで死体ネタで申し訳ないが、そもそも今回はミイラネタで始めたんだから、河江肖剰さんのミイラの話にしておこう。
*1:この論文の分析の成功率の低さに注意。実は以前のツタンカーメンとかの解析は(王族の場合は手間を掛けた上等のミイラで保存性はずっと高い可能性はあるが)、発掘時から現代までの間に汚染してる可能性もかなり高く、わりと危ういのだ。
*2:ただしISOGG version 11.228 (accessed 19 August 2016)のもの。JはいいがE1b1b1a1b2は当時の対応を確認(waybackも見た)する必要があり、結局は現在と同じV22だった。
考古学的な遺伝証拠はどのぐらい古くまで残ってるものか?
まだ古人類学シリーズで、遺伝子証拠の可能性だとか残りやすさの話をします。
実際の考古学的遺物としての遺伝子は、どのぐらいまで古く残ってるものなのか?
これも気になってた。
現在のヒトDNA最古の解読記録が、43万年前(スペイン・カルスト地形(石灰岩)地帯のアタプエルカ・Sima de los Huesos)だということは前回わかった。
limestone=石灰岩、speleothem=洞窟生成物、Matuyama=松山逆磁極期
論文
Nuclear DNA sequences from the Middle Pleistocene Sima de los Huesos hominins(2016)
しかし、ヒト以外の現在の記録も知りたい。
そして本当のところは、理論的に、また条件次第でどのぐらいまでいけそうなのか、可能性のほうが重要だろう。
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