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知識探偵クエビコ

人類史・古代史・神話の謎を探ったり、迷宮に迷い込んだり……

南太平洋バヌアツとトンガ、島民の祖先はアジア人

ニュース関係は時期を外すと書く機会がなくなるから書いておこう。

__10/8、忘れてたことと修正があるんで、少し直しました。男の子と女の子で性染色体の組み合わせが違うことを書き忘れてたり。

__10/12、最後のほうに、P・C1b2aなどの出てる地域と、Dと未調査地域の事情を書き足しました。

忙しかったり風邪引いてたりして、なんも書けなかったわ。(ここからは10/7に書いた)

それと、自分にとってもニュース関連のほうが、新しい知識だったり、書くモチベーションの持てる内容だったりする。

正直、他人にわかるように表とか引用内容や引用論文まとめるのは大変。それに、世の中には出てないかも知れないが、自分にとってはもう知ってる話なわけで、その部分で興味としてはもう低くなってたりする。自分はもともと最初に地理オタクというのがあって、変わった場所の話が好きだっていうのもあるし。

 

そしてこれも、ちょうどポリネシアの人類史に触れたところで、自分が書いた内容とリンクする話がまたもやタイミング良く出てきた、という、書く必然性を感じさせるニュースだったのだ。

論文はこちら。

Genomic insights into the peopling of the Southwest Pacific.
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature19844.html

先に反応した記事があったから、敬意を持って貼っておこう。

 

南太平洋の島々に進出した、人類史上始めて遠洋航海をしたとされるラピタ人は、これまで考えられていたパプアニューギニア・オーストラリア系統ではなく、アジアの系統だったのだ。

そして現代のトンガ人は、このラピタ人に、パプア・オーストラリア系統が四分の一入っている、と。

 

ところで、この論文で始めて気づかされたことがあった。

Y染色体とX染色体は量が違う。塩基対の数で、Yは5100万、Xは1億6300万

だから、二つの人類系統が一対一で結婚して男(性染色体XY)の子孫を残すとき、分量で見た染色体の比率*1は、二つの人類系統50%ずつの混合ではなく、染色体の量の違う分、女の側の比率が高くなるんだとさ。(特に、性染色体にある情報を見ている場合は注意が必要のようだ)

言われてみればそうか、という話だわ。遺伝的に男と女は平等じゃなかったんだ。*2

 

で、オマケ。オリジナルコンテンツ。

この地域の奇妙で特徴的なY染色体のデータ見たことあったな、と思って引っ張り出してきました。変わった面白いデータだと思いつつ、今まで表にしたこと無かったんで。

元はKarafet先生の二つの論文。問題のバヌアツやトンガのデータもあります。

最初の論文のデータがほとんどだが、珍しいハプログループPを調べなかったことが問題で、後の論文でこのPを確定してる。表の中で(P)がついているのがPの出てる後の論文のデータで、とりあえず他の場所はPが出ていない。*3

Major east-west division underlies Y chromosome stratification across Indonesia. - PubMed - NCBI

European Journal of Human Genetics - Improved phylogenetic resolution and rapid diversification of Y-chromosome haplogroup K-M526 in Southeast Asia

f:id:digx:20161007191520g:plain
説明。これらはすべてKarafet論文のデータで、中国などは他の論文のデータのほうが詳しい。アエタ族はフィリピンにいて最初の論文のデータではどういうわけかフィリピン全体ひとまとめだった。スマトラからボルネオまでが、氷河期にスンダランドで陸続きになった西インドネシアスラウェシからモルッカまでが東インドネシアで、フィリピン(+アエタ)ともども陸続きにならなかった。ブーゲンビルニューギニア島の東にあるがそれほど離れていない島で、国としてのソロモン諸島に入ってないが地理的にはソロモン諸島に属する。バヌアツからは到達に遠洋航海術が必要となる別文化の地域だが、データでここまでがメラネシア。このミクロネシアは国だがより広範囲の地域でもある。トンガからがポリネシア。最後にこのポリネシアの合計を付けた。なおラピタ文化の範囲は、パプアニューギニアの周辺ビスマルク諸島から(ミクロネシアは除いて)サモア諸島に達する。*4

何が変かって、この地域は、普通は分析不足でしか出てこない(ついでにFも)が、ごろごろ出てくるんです。M・Sもこの地域特有。フィリピンのアエタ族とか、ほとんどこの両者ってどういうことかと。*5

さすがにこれは分岐図を確認してほしい。自分も、ややこしい位置づけのKが含んでる可能性をあらためて確認した。
f:id:digx:20160713190336g:plain

で、問題の、Y染色体で台湾から移動したアジア系って何を指すか。

この答えは、Oの一部、ということになる。これがオーストロネシア語族にあたります。

論文にこんな地図付いてます。

f:id:digx:20161008010300g:plain

ニュースの論文で問題となってる台湾からの移住は図Cで、O1a2-M110・O2a2-P201・図BにもいるO1a1a-P203が該当者、ということになる。(その他、今までに出てきてないハプログループと変異の関係を説明しておく。M・L・Jは一番基本レベルを指している。S-M230はS1a1bでH-M69は現在はH1a。Oの残りは、O1b1a1a-M95、O2-M122、O1a-M119。……ということは、同じ時期に移住していてもOの下位系統はバラバラなわけだ)

トンガのOは少なすぎるように見えるが、これはサンプル数が12と少なすぎて正しい割合が出てないのかも知れない。地域差だとか、複雑な混血の影響とかもあり得るんだけど、あんまりつっこめない。サンプルが少なすぎてそんなに数字を信頼できないから。

 

ついでに、これらがスンダランド関係のデータでもある。

氷河期の状況を問うなら、図A図Bを見ましょう。また表を見て、切り離された地域である西インドネシアデータを見たり、あるいは離れていてもその近くにあった東インドネシアやフィリピンを眺めて(こちらは少し古い状況の反映ということになるはず)、そしてその後の変化(図C以降)を差し引きましょう。

するとスンダランドのY染色体構成員は、おもだったところで、C・K・M・S・若干のFやP、そして図Bにある一部のO(O1a1a-P203、O1b1a1a-M95、O2-M122、O1a-M119)、ということになるわけです。

よく見ると、Pは東インドネシア+フィリピンの「近い離島地域」だけで出ている。C1b2aも西インドネシアで出ずそれより東の離島地域から出ている。この状況はこの両者の拡がりかたと関係するはず。

Oの一部以外は日本など東アジアにいない系統ばかりであるため、少なくとも男に関して、スンダランドは東アジアにあまり影響した様子が見えないわけだ。(Cも下位系統が違う。ただし確定されていない部分もあることに注意が必要か)

だがここで、この論文で調査されず触れられなかったDの事情も書き足しておこう。

D1a以外のDも、この地域で氷河期でも陸続きにならなかった離島地域で出ている。

まずは西側、ビルマの南からスマトラ島の間にあるアンダマン諸島で出ている、詳細分析がされていないオンゲ族のDだ。

そして次に、フィリピンでも南の多島海地域にあるマクタン島のD2で、これはマクタン島のアロイ一族が自らお金を払ってDNAの分析をしたから発見されたものだ。*6

さらに、広い意味でミクロネシア地域にあたるグアムにも、いつ頃移動したのやら、詳細分析のされていないDがいる。*7

 

Karafet論文もオセアニア地域に数多ある島々のすべてを網羅してるわけではないし、調べられていてもサンプル数の少ない場合も多いため、まだまだデータに脱落のある可能性はあると思っておかなければならないだろう。

実際、フローレス原人も出たフローレス島とか、アロイ一族のいるフィリピン南方多島海地域だとか、この地域には適当に孤立して特殊な古い集団が残りそうな地理条件の離島群がたくさんあるのだ。

もちろん、過去にはいたが単純に残らなかった集団もあると思わなければならない。西インドネシアにはいないけど離島地域にいる集団がいくつかいるのだし。

*1:ADMIXTUREのような染色体の比較は、この分量で調べてる。

*2:なお、女の子供の性染色体はXXだから比率は50%ずつでいい。

*3:後の論文はデータ総数は多い(同じデータを使ってる場合もある)が、K2以下しか調べておらず、しかもNOの段階までしか調べていなかったりする。そのため前の論文と組み合わせて解釈する必要あり。スラウェシ(P)のところにある「CFJ etc.」は後の論文で解析されなかった部分で、上に並んだ以前の論文のデータから、C・F・Jの可能性があるとわかる。ちなみに後の論文のデータでスラウェシ以外の未解析部分は、どこもほぼCにあたるようだ。またNOと出ている部分は、この地域ではOだと見ていいようだ。(ただし元の調査からサンプルが増えている場合、そこにNがいないと断言できるわけではない)

*4:その他注意部分。この当時のFはHの一部を含んでいるため確定できない。まあしかし、東南アジアはFが出るところです。C以下は、C1b2a-M38以下とC2しか調べられていないため、それ以外を「C xC1b2a xC2」と表記している。ちなみにインドネシア地域には他にC1b1a2-B65だとかC1b1b-B68がいて、大陸ではインド系のC1b1a1-M356なども出る可能性がある(ISOGG)。またオーストラリアアボリジニのC1b2b-M347も調査から外れており、これはちゃんと不在証明して欲しかったところか。

*5:アエタ族のKはP378ばかりで、これはMのレベルと並ぶK2b1cあたりに該当するようだ。なお、ISOGGによればアエタ族にもC1b1a2-B65がいるとのこと。まあサンプル数少ないんで脱落はあるでしょうし、他の論文見たら地方性もあるようで。

*6:Karafet論文のフィリピンデータで調査されたのは首都のあるルソン島だけ。アエタ族に触れてる別の論文を紹介したが、そこでもミンダナオ島など一部が加わってるだけだ。

*7:Dも、太平洋への移住者集団に少しは加わっていたと考える必要があることになる。ただし、意外と新しい時代に移住した可能性もあるが。