知識探偵クエビコ

人類史・古代史・神話の謎を探ったり、迷宮に迷い込んだり……

オーストロネシア――熱帯動植物文化の探求・聖樹カジノキ再び

次はカジノキ(Broussonetia papyrifera、クワ科*1コウゾ属。漢字で「*2の話をまたしよう。以前のカジノキ記事の続きだ。でも、ラピタ人とブタとニワトリにも触れる。

カジノキ

まずは、そのときの論文よりちょっとだけ前の2014年12月の論文をさらっと。

約8000年前の最古の樹皮加工具(樹皮を叩いて柔らかくする石器)も、問題の地域・広西のDingmo site百色市布兵盆地洞穴遗址群で出ていた。揃うねえ。

The oldest bark cloth beater in southern China (Dingmo, Bubing basin, Guangxi)

樹皮加工具地図

*1:カジノキは葉っぱがクワに似ており、「」という漢字も三つに割れた葉っぱが元のようだ。

*2:穀物の「」とは微妙に違うが同音。特に手書きだと文意でしか見分けられない気がする。

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オーストロネシア――熱帯動植物文化の探求・イネ

そろそろオーストロネシアの話に戻ろうかなと。思い出しておくと、前はこの記事(オーストロネシアの人々――謎のヌサンタオ編)だ。

文化的な話を中心に、遺伝学など他の学問も絡めてやります。

以前のイネやもっと以前のカジノキの話の続きとその他聖樹だとか、家畜化された動物も絡めて、北回帰線沿い地域と絡めて書こうと。

やった気がしてたが、繰り返し話はしてたがやってなかったイネのまとめ。

そして今後、以前書かなかった銅鼓・ドンソン文化・船棺・サーフィン文化などベトナム関係のまとめや、水人・家船・お歯黒などもやるぞ、と。大部分のテーマは次回以降。繋がりとまとまりを考えつつ適当に分ける。

 

実は、要注意の文化や集団や物は他にもあった。

そしてこれらは、歴史において軽視されがちな、北回帰線(tropic of cancer)より南、緯度で定義された熱帯(tropics)の話なのだ。

熱帯(tropics)

この南の熱帯地域は、決して文化不毛の地ではない。

そもそも各種栽培植物や家畜*1を調べると、イネタロイモサトイモ)・ヤムイモバナナここまで前回記事中央にあるイヌこれも記事にしたブタ(アジア系*2)・ニワトリなど、この中国やインドの一部も含めた広めの東南アジアあたりが起源である場合は非常に多い。

そしてこれは、氷河期ですら豊かな植物種が途切れなかった、問題の地域の自然環境の豊かさを考えれば、特に不思議なことではない。

しかしこの科学的には当然の事情にもかかわらず、これら栽培植物・家畜は、「高緯度地域が文化の中心」という伝統的な重たい偏見を裏切る文化現象になってるわけだ。

 

というわけで最初は、思い出しもまとめも兼ねて、またイネの話をしておこう。

これはつまり、次の図(遺伝学)の地域の話をやるということでもある。

オーストロネシア人起源地図
Resolving the ancestry of Austronesian-speaking populations | SpringerLink 2016年

イネこそが、このオーストロネシア人起源地図(&タイ・カダイ語族)との関連性が最も高いらしき話。ただし時代を遡るためオーストロネシア人自体の段階はあまり出てこず、タイカダイと分かれる以前の、オーストロアジア語族など複数語族の祖先集団と関わるお話になる。

 

*1:栽培化も家畜化も英語にすればまとめてdomestication。翻訳すると「馴致」(じゅんち)なんて表現もあるがわかりにくい。悩みつつタイトルに「動植物文化」と書いたら、このほうがニュアンスの収まりがいい。

*2:中近東でも別に家畜化された。

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ミイラネタ――その後のナショナルジオグラフィック巡り

というか死体ネタというか。

 

少し前の物だが、遺伝子解析の、別のミイラネタを見つけた。

【遺伝】古代エジプト人のミイラのゲノム解析 | Nature Communications | Nature Research

この論文の中で、Johannes Krauseたちの研究グループは、エジプト中部のアブシール・エル・メレク遺跡から出土した3体のミイラ(それぞれプトレミー時代以前、プトレミー時代、ローマ時代のものとされる)に由来するゲノムワイドのデータセットだけでなく、ミトコンドリアゲノム(90件)を新たに調べた結果を示している。そこで分かったのは、古代エジプト人と近東人(西アジアと中東に居住する人々)との遺伝的類似性が高いということで、現代のエジプト人に見られるサハラ以南の人々の遺伝的要素は、最近加わったものであることも明らかになった。ただし、この遺伝的データがエジプト中部の単一の遺跡から得られたものであり、古代エジプト全体を代表していない可能性のあることをKrauseたちは指摘している。

今回の研究は、古代エジプト人のミイラのDNA解析として初めてのものではないが、Krauseたちは、今回の研究で最新の塩基配列決定技術が用いられ、それによって取得されたデータの起源が古代のものであることを確認するための信ぴょう性評価が行われたことから、初めて信頼性の高いデータセットが得られたという見方を示している。

なお、プトレミー時代とはプトレマイオス朝(紀元前306年 - 紀元前30年)のことだ。

こっちには時期が明確に「紀元前1400〜紀元400年に生きた人々のミイラ151体のサンプルから、90のミトコンドリアゲノムと3つの核ゲノム」*1と書いてあり、次のコメントがある。

しかしチームは、もっと後になってエジプト人のゲノムが変化していることを発見した。「サブサハラ(サハラ砂漠より南の地域)起源の遺伝子が、次第に増加していました」と、マックス・プランク研究所のステファン・シッフェルスは言う。「おそらく、約1300年前に始まった奴隷交易を含む、ナイル川の通商の増加によるものでしょう」

論文

Ancient Egyptian mummy genomes suggest an increase of Sub-Saharan African ancestry in post-Roman periods | Nature Communications

次の図のaは古い順に並んでる(右二つが現代)ミトコンドリアデータ。

f:id:digx:20170628122852j:plain

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ちなみにY染色体ハプログループ*2も、ゲノムワイドデータを調べた3体分がある。同時にミトコンドリアも年代測定値もあるわけだから、古い順に並べておこう。

  • JK2134:Y-J、mt-J1d、cal BC 776-569
  • JK2911:Y-J、mt-M1a1、cal BC 769-560
  • JK2888:Y-E1b1b1a1b2-V22、mt-U6a2、cal BC 97-2

ちなみに、ハプログループJは大雑把すぎるが、E1b1b1a1b2-V22はエジプトのデルタ地帯に多い。

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ミトコンドリアは、J1d中近東から地中海・M1a1アフリカ・U6a2エチオピアやエジプトなど

 

ついでにその他ミイラのニュース。 

ミイラになるのはヒトだけじゃない。そして天然物も多い。

コウモリの糞の保存効果は知らなかった。

 ミイラ研究者のアーサー・C・オフデルハイデの著書『The Scientific Study of Mummies(ミイラの科学的研究)』によると、米国ネバダ州のラブロック洞窟で見つかった多数の鳥のミイラは、コウモリの糞によって作られたという。さらに、同洞窟からは人間のミイラ3体も発見されている。

 コウモリの糞が動物の体を覆い尽くすことで、酸素に触れることがなくなり、保存状態の良いミイラができるのだろうと、ギル=フレルキング氏は説明する。

前回の記事Sima de los Huesosの地層挿絵にも、訳さなかったがどんな洞窟でも定番の"Bat guano clays"=コウモリの糞(の粘土)はあった。石灰岩(limestone)だけじゃなく、これも大きな意味があったわけだ。

f:id:digx:20170625223639p:plain

 

ちなみに、エジプトには桁違いな数の大量の動物のミイラがあるそうだ。これだけ数があれば、(破壊されてる物も多そうなことに目をつぶれば)かなりの情報が得られるはず。(自分の興味があるのは特にイヌ・ネコだが)

 

伝染病だってわかる。

天然痘は意外にも新しい病気だったようで、1588年までしかたどれないという。

 

ところで、今日(2017/6/28)ナショナルジオグラフィックで一番目を引いたのは次のニュースだ。ただし、読んだ後の後味が悪くてデザートが欲しくなる。

この問題、イヌがイヌを食べるのかという問題でもあるよねえ。親犬が死んだとき、腹を空かした子犬は親を食べるのか。生きる可能性を考えると自ずと答えは見えてきそうで。(と自分で書いて気分が悪くなる)

次のはミネラル摂取の要求だろうと思うが。(記事にもそう書いてある)

シカに限らず、ウシやゾウなんかにもいろいろとミネラル摂取の習性はある。

エゾシカの餌選択とミネラル要求性--PRO NATURA FUND

必須ミネラルはだいたい体重に比例した量が必要なわけだから、たとえば(草食の)恐竜にもこのたぐいの習性は必要だったはずだ。

 

というわけで、多少は口当たりのいいデザートを探したのさ。

結局は最初から最後まで死体ネタで申し訳ないが、そもそも今回はミイラネタで始めたんだから、河江肖剰さんのミイラの話にしておこう。

*1:この論文の分析の成功率の低さに注意。実は以前のツタンカーメンとかの解析は(王族の場合は手間を掛けた上等のミイラで保存性はずっと高い可能性はあるが)、発掘時から現代までの間に汚染してる可能性もかなり高く、わりと危ういのだ。

*2:ただしISOGG version 11.228 (accessed 19 August 2016)のもの。JはいいがE1b1b1a1b2は当時の対応を確認(waybackも見た)する必要があり、結局は現在と同じV22だった。