知識探偵クエビコ

人類史・古代史・神話の謎を探ったり、迷宮に迷い込んだり……

日本人3554人のゲノムデータベース

日本人3554人のゲノムのデータベース(3.5KJPN)を、東北大学が作ったというニュースがあった。

ヒトゲノム、世界最大級のDBに 日本人特有の特徴発見:朝日新聞デジタル

 

これはもちろん東北大学の公式プレスリリースがある。こっち読んだほうがいいでしょう。

リリースの詳細pdf https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20170718_05web.pdf

 

中身をまとめる。

  • 日本人3554人の全ゲノムリファレンスパネル(3.5KJPN)を作った。――これまでは2049人分だった。
  • のべ約 329 兆塩基もの高品質な全ゲノム断片配列情報を解読。――これは全人数分で、という意味。
  • 約3710万個(37,067,715)の一塩基変異(SNVs)を収載。うち約2690万個は世界各地のSNVsを登録する国際データベースにないもの(日本人に特徴的)。――これまでは約2800万個(うち1830万が日本人に特徴的)だった。
  • 3.5KJPN の約32%は宮城県岩手県以外(地域分けは母親出身地*1)。――ただし他にも東日本の都道県がある。*2

    サンプル数

    その他を除いて(総数2660)比率を計算すると――宮城岩手:56.7%、東日本その他:12.6%、中部:10.6%、西日本:20.0%――となる。(なお、地域分けの地図は二つ後の図にある)

  • 日本列島内の地域集団の微細な違いは確認されるものの、他のアジア集団のゲノム情報とは、大きく、かつ明確に異なる日本列島出身者としてのまとまりが検出(確認)。――この傾向は以前の1KJPN、2KJPNでも検出されていたもの。*3

    主成分分析

    ちなみにCDXのDaiは雲南省シーサンパンナのタイ族(タイ・カダイ語族)。KHVはベトナム南部ホーチミンのキン族(いわゆるベトナム人。オーストロアジア語族)。ベトナム人よりタイ族のほうが漢民族から遠くに出るわけ。

    主成分分析(地方別)

    • 東日本は全体的には大陸から遠い。ところが大陸寄りの集団が一部含まれてる。(※もともと東日本のデータだけが多く、その分少数派も出やすくなってることに注意)*4
    • 西日本は全体的には大陸に近い。ところがこちらでも、大陸から大きく離れて出た集団は西日本だけにある。(これは沖縄かもしれない*5
  • 3.5KJPN は、日本人の持つ 0.03%以上の SNVs をカバーする。
  • これらの情報により、現在日本医療研究開発機構(AMED)が実施中の、未診断疾患イニシアチブ(IRUD)事業における疾患候補遺伝子の絞り込み性能のさらなる向上が見込まれる。
  • 東北大学はデータベースも作ってる。直リンクはやめておく。*6

 

*1:長崎と滋賀長浜の検体は西日本とした、ともある。

*2:アイヌについて何も書いてないが、後の分布図からすると、データに入れてないようだ。

*3:出雲の時似た図を見た気がしたが、左右反転で日本人が右側にいる図だった。もちろん、傾向は似てる。

*4:しかしこれは本当に古いのか、高麗移民あたりか、奥州藤原氏などの移住豪族か、ずっと新しく近年の移住者(混血)か。

*5:西日本は、各地の集団がそれぞれどう出るのか、地域性に興味がある。

*6:データに地域情報があるなら追及してもいいが、そもそも大雑把な地域も調べられなさそうで。(個人情報になるのかこれは)

オーストロネシア――熱帯動植物文化の探求・聖樹カジノキ再び

次はカジノキ(Broussonetia papyrifera、クワ科*1コウゾ属。漢字で「*2の話をまたしよう。以前のカジノキ記事の続きだ。でも、ラピタ人とブタとニワトリにも触れる。

カジノキ

まずは、そのときの論文よりちょっとだけ前の2014年12月の論文をさらっと。

約8000年前の最古の樹皮加工具(樹皮を叩いて柔らかくする石器)も、問題の地域・広西のDingmo site百色市布兵盆地洞穴遗址群で出ていた。揃うねえ。

The oldest bark cloth beater in southern China (Dingmo, Bubing basin, Guangxi)

樹皮加工具地図

*1:カジノキは葉っぱがクワに似ており、「」という漢字も三つに割れた葉っぱが元のようだ。

*2:穀物の「」とは微妙に違うが同音。特に手書きだと文意でしか見分けられない気がする。

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オーストロネシア――熱帯動植物文化の探求・イネ

そろそろオーストロネシアの話に戻ろうかなと。思い出しておくと、前はこの記事(オーストロネシアの人々――謎のヌサンタオ編)だ。

文化的な話を中心に、遺伝学など他の学問も絡めてやります。

以前のイネやもっと以前のカジノキの話の続きとその他聖樹だとか、家畜化された動物も絡めて、北回帰線沿い地域と絡めて書こうと。

やった気がしてたが、繰り返し話はしてたがやってなかったイネのまとめ。

そして今後、以前書かなかった銅鼓・ドンソン文化・船棺・サーフィン文化などベトナム関係のまとめや、水人・家船・お歯黒などもやるぞ、と。大部分のテーマは次回以降。繋がりとまとまりを考えつつ適当に分ける。

 

実は、要注意の文化や集団や物は他にもあった。

そしてこれらは、歴史において軽視されがちな、北回帰線(tropic of cancer)より南、緯度で定義された熱帯(tropics)の話なのだ。

熱帯(tropics)

この南の熱帯地域は、決して文化不毛の地ではない。

そもそも各種栽培植物や家畜*1を調べると、イネタロイモサトイモ)・ヤムイモバナナここまで前回記事中央にあるイヌこれも記事にしたブタ(アジア系*2)・ニワトリなど、この中国やインドの一部も含めた広めの東南アジアあたりが起源である場合は非常に多い。

そしてこれは、氷河期ですら豊かな植物種が途切れなかった、問題の地域の自然環境の豊かさを考えれば、特に不思議なことではない。

しかしこの科学的には当然の事情にもかかわらず、これら栽培植物・家畜は、「高緯度地域が文化の中心」という伝統的な重たい偏見を裏切る文化現象になってるわけだ。

 

というわけで最初は、思い出しもまとめも兼ねて、またイネの話をしておこう。

これはつまり、次の図(遺伝学)の地域の話をやるということでもある。

オーストロネシア人起源地図
Resolving the ancestry of Austronesian-speaking populations | SpringerLink 2016年

イネこそが、このオーストロネシア人起源地図(&タイ・カダイ語族)との関連性が最も高いらしき話。ただし時代を遡るためオーストロネシア人自体の段階はあまり出てこず、タイカダイと分かれる以前の、オーストロアジア語族など複数語族の祖先集団と関わるお話になる。

 

*1:栽培化も家畜化も英語にすればまとめてdomestication。翻訳すると「馴致」(じゅんち)なんて表現もあるがわかりにくい。悩みつつタイトルに「動植物文化」と書いたら、このほうがニュアンスの収まりがいい。

*2:中近東でも別に家畜化された。

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