イヌの起源 「オオカミ、ヒトに出会う」
最古の家畜 イヌ
イヌは文句なく最古の家畜である。
そしてその起源は、家畜の中でも桁外れの数万年(もう一桁多い予測もある)という単位が出てくるほど古くまで遡ってしまう。
そしてその古さ故に、家畜としてのイヌの起源の追及は、人類の移住の歴史とも関わってくる。
実は、出アフリカ民である日本の縄文人の祖先と無関係な話で済まないほど、というか、現生人類が世界中に拡がった人類史との関係性を持つほどに、イヌの起源は極端に古いのだ。(イヌもおそらく一万年以上前から日本列島にいて、いつ誰が連れてきたかが問題となる)
今回は、ここ数年イヌの起源にまつわるニュースが錯綜していることもあり、結局今はどのような判断になってるのか、まとめてみることにした。
左:柴犬 右:ニューギニアシンギングドッグ 今回断りのない画像の出典はすべてwikipediaのCC0。
まずは基礎知識を書いておこう。
- 狭い意味のイヌであるイエイヌ(英語でdomestic dog。学名Canis lupus familiaris)は、すべての犬種が、タイリクオオカミ(別名ハイイロオオカミ。学名Canis lupus)を家畜化したもの。
- タイリクオオカミがアフリカにいないため、少なくともイヌはユーラシア起源だと考えられている。で、詳しい場所を追及すると、中国・東南アジア・インド・中東・中央アジア・ヨーロッパと、いろいろな地名が登場することになる。
オランダの動物園のタイリクオオカミ (Canis lupus lupus)。By Warsocket - オーストラリアなどのディンゴ(学名Canis lupus dingo)はイエイヌが再野生化したものと考えられていて、オーストラリアに現れたのはせいぜい5000年前ぐらいのようだ。
ニューギニア・シンギング・ドッグ(トップから2枚目の写真)*1もこのディンゴの一変種で、学名でもDingo。
同じようにこのディンゴと同類とされるイヌに、タイ・リッジバック・ドッグ(タイ)やプー・クォック・リッジバック・ドッグ(ベトナム)もいて、この東南アジアあたりがディンゴ類の起源だと考えられている。
ディンゴの子供 - イヌの起源論には、一つの大きな障害がある。イヌと、近縁のイヌ属のオオカミ(ユーラシア・アメリカ)・コヨーテ(アメリカ)・ジャッカル(インド・中東・アフリカ)・リカオン(アフリカ)・ドール(ユーラシア東南部)などは(もちろんイエイヌと変わりのないディンゴ類も含めて)染色体の本数も同じで相互に遺伝的に交配可能であり、その子供も子孫を残すことができるのだ。
犬種(サイズとか)にもよるが、イヌとオオカミがもともと自然状態でも交配可能であり、実際に世界各地で交配があったと見られることは、イヌの起源の追及を難しくしている。DNAを調べて関係が近いという結果が出ても、それはお互いに後の時代の交配の影響だと考えられるからだ。実際、ヨーロッパのオオカミとヨーロッパのイヌが近いだとか、中国のオオカミと中国のイヌが近いということが、現状として同時に起こっているわけである。
(なお、日本などには意図的にオオカミと猟犬を交配させたという、いくぶん伝承的な話もあったりする。紀州犬にも伝承がある。派生して村上和潔さんの話だとか) - イヌとオオカミなどが生殖的に隔離された種ではないため、その境目をどこに置くかも問題となる。何を持ってイエイヌがオオカミから分かれたことになるか、家畜化されたというのはどういう状態を意味するのか(これはイヌ限定ではない家畜化の定義問題)、基準をどこに置くかも議論となるわけだ。(もちろん基準次第でその起源地も変わってくることが大いにあり得る)
- するとイヌの起源は、(これは個人的な予測ではあるが)ストーリー展開のある起源譚となると考えられる。イヌの起源譚は、ヒトが出アフリカした後で、中東でタイリクオオカミと始めて出会い(おそらく始めて出会った場所に関しては異論がない)、○○で何が起こり、○○で何が起こったとか、最終的にイエイヌはデンプンを消化する能力も持っている(これは農耕開始以降のことだと考えられる)だとか、いろいろな変化を並べ立てていく必要があると考えられるのだ。
(実は、ネアンデルタールなどがイヌの起源と関係している可能性もある。タイリクオオカミの側から見れば、現生人類以前にネアンデルタールのような化石人類と出会っているはずなのだ) - イヌの場合も、まず、オオカミがヒトのすぐ近くで生活を始め、ヒトの作り出した世界にある程度適応する(生態と形態が変わる)という家畜化の前段階があったはずである。
(これは家畜だけでなく、ネズミ・スズメ・カラス・ゴキブリ・シラミ*2などヒトの近くに棲む動物すべてが該当する。だからこの段階を家畜化と表現することはないだろう。そして実は、ネコはこの「ヒトの近くで自由に獲物を捕り、自由に繁殖していた」状態が長かったと考えられ、家畜化の定義を難しくする動物となっている。ネコは「ヒトが意識的に家畜化したのでなく、ネコが自らヒトの作り出した世界に適応して、結果的にヒトと共生する道を選んだ」と考えられるのだ) - オオカミ(ヒトを怖れることを知らない子供だったかも知れない)は、まずヒトの食べ残し(ゴミ)を狙って、オオカミの側からヒトに近づいたと考えられている。最古の家畜であるイヌの場合もネコのように、自らヒトの作り出した世界に適応することから始まっていると考えられているのだ。(ヒトが意識的に家畜化を始めるのも、このような無意識の家畜化の経験を経てからではないだろうか?)
人間は犬に飼いならされた? | ナショナルジオグラフィック日本版サイト
基本的にわれわれは、進化における適者生存について最も強く優勢な種が生き残り、脆弱な種が滅びると考えがちだ。ところが、ほとんどの犬種はぜい肉を落として競争力をつけたのではなく、人なつこさが決め手になった。
最も可能性が高いのは、人間からオオカミにアプローチしたのではなく、オオカミが人間にすり寄ったという説だ。おそらく、人間の居住地の隅にあるゴミ捨て場をあさることがきっかけになったはずだ。勇敢だが攻撃的なオオカミは人間に殺され、大胆で人懐っこいオオカミだけが受け入れられた。
オオカミの子供。©2011-2016 woxys
次は日本のイヌについて。
- 日本で最古のイヌの骨の出土例は、奈良文化財研究所骨データベースによれば、「約1万年前の神奈川県夏島貝塚の縄文時代早期初頭の貝層から出土したのが最古で、やや遅れて佐賀県東名遺跡や愛媛県上黒岩岩陰遺跡から」
- 夏島貝塚。骨が少ししか出ていないため分析できないようだ。市のサイトなど公式的なところを探してもwikipediaを見てもイヌの骨への言及が出てこない。
- 東名(ひがしみょう)遺跡。たくさんの骨が出土。飼育されていたと考えられている。DNA解析で現生の柴犬・秋田犬・紀州犬・琉球犬に認められるタイプの遺伝子の組み合わせが確認された(つまり、後のイヌが持つ変異マーカーが出た、現在の日本犬と共通する系統)、という。
- 上黒岩岩陰遺跡。イヌが埋葬されていたとわかる日本最古の例。
- ちなみに、イヌの骨は、琉球の古人骨が見つかった旧石器時代の遺跡からは未だに出てきていないようだ。出てきていればどこかに記述が見つかるはずだから。
- 縄文時代以前のイヌは縄文犬と呼ばれる。大きさはちょうど柴犬と同じぐらいだが、額の形などに違いがある。(ただしディンゴの頭骨と似てるし、柴犬の顔の変化は子供の顔に似てるし、その顔立ちの変化ってペット化が進んでヒトが可愛い顔を選んで幼形成熟した、人為選択による変化ではないかと思うのだが。ディンゴとオオカミの子供の写真を参照してほしい)
左は東名遺跡の記事より。右はwikipediaにあったディンゴの頭骨。額の角度に注意。
絶滅した日本のオオカミの遺伝的系統より。http://ci.nii.ac.jp/naid/10030556934
縄文犬のサイズは柴犬やニューギニアシンギングドッグ(トップの写真で並べた二種)と同じぐらい。
なお、秋田犬はエゾオオカミよりは小さいが、日本犬で唯一の大型犬種となっている異例の存在。 - ただし、イヌの骨も人骨と同様に日本の土壌では分解されてしまうため、基本的に古い物が出てこない。だから、実際に日本列島へのイヌの到来がどこまで遡るかは定かではない。(今のところ旧石器時代の琉球から出てこないことが非常に重要か)
- 日本犬は遺伝的にタイリクオオカミに非常に近いことで知られる。(日本犬が交配していたと考えられるのはニホンオオカミであり、ずっと昔にタイリクオオカミから海で切り離された種だったのだが)
柴犬は遺伝的にもっともオオカミに近いイヌだったという次のグラフは、犬好きには有名だと思われる。(秋田犬も三番目にいる。秋田犬は日本犬の中でも交配によって大きくしたイヌだがそれでもこんな位置に来る。ただし、ディンゴなどリストにないイヌがたくさんいることに注意)
犬が持つ4つのDNA情報を分析し犬種ごとに分類するとこんな感じになる - GIGAZINE
元ネタHow to Build a Dog - Family Ties - Pictures, More From National Geographic Magazine
この記事は2012年だが、元にされた研究は2004年に遡る。Genetic structure of the purebred domestic dog. - PubMed - NCBI
最後のグラフに関わった人たち(Heidi G. ParkerとElaine A. Ostrander)には、2010年の別の論文もある。
Man’s Best Friend Becomes Biology’s Best in Show: Genome Analyses in the Domestic Dog
このグラフで見て欲しい場所。
- オオカミもちゃんと地域別に見ていることが重要。(オオカミが残ってないせいもあって脱落している地域もあるし、適当なヨーロッパ特有要素はなかったのかと思うが)
- オオカミ側にもイヌからの遺伝要素が入っているとわかる。(たぶん、イヌの存在の歴史が長くて数量もあるところの方が混ざりも多くなるんだよ。数学的に考えれば)
- 中東のオオカミには犬要素が多くてアジア要素も入ってるのに、中国オオカミに中東要素はない。アジア東方と中東の間で移動があったのか、逆に中東要素の一部だけがアジアに移動して繁栄しアジア要素となったのか。(だから間のインドとか東南アジアが気になる。中央アジア側の影響は薄いから、南方ルートであるはずだし、人類史を踏まえても、アジア要素の真の起源地である可能性がある)
- ところが犬はオオカミと逆だ。アジア要素は他の地域の犬にそれほど広まっていない。しかし東アジアの犬には中東要素が入ってる。しかも秋田犬もアラスカン・マラミュートもエスキモー犬も。(エスキモー犬はむしろ新しい犬種に似てるし、アジア要素も少ないし、西からシベリア経由かもしれないが)
しかしディンゴとニューギニア・シンギング・ドッグ(NGSD)は中東要素が薄い。中東要素はいつどんなルートで移動したのだろう?
個人的なイヌの起源の想定シナリオ。
家畜化初期(最初は家畜化の前段階に当たる)のイヌの先祖において、東南アジアで発生したアジア要素の中東への移動があった。(人類も氷河期に東南アジア中心で人口の増えた時期があったため、そのタイミングに当たると見る。ヒトY染色体ハプログループでは、世界に広まっているCおよびPQR集団あたりが鍵。ただし、初期のオーストラリア移住者などがイヌ類を伴っていないことに注意。西方向は犬の存在証拠が古いんだけどね)
しかしイヌはその後中東を中心に発展。後の時代にその犬種が世界へ広まる。
ディンゴ類は、その移動は比較的遅かったが、中東の影響を受ける前の古い犬種だった。
ミトコンドリアによる人口変化の予測http://mbe.oxfordjournals.org/content/25/2/468.long
(縄文犬はどちらだったのだろう。中東の影響があるか、ディンゴに似ていたのかが、移動時期や中東犬種の広まり時期の問題に関わる。交配の多い秋田犬より縄文犬に似た柴犬を調べて欲しかったな。……いや、それより古い骨自体を調べるべきか。日本は、ニホンオオカミも古くに大陸から切り離された種だったわけだし、結構この犬の問題にとって重要な情報を秘めてるはずなんだよ)
(それと、どの時点で・どの場所でイエイヌとなったかの解答は、定義をどうするかの問題となる。ディンゴ類をイエイヌと認めるなら、この解答は東南アジアかインドになりそうだが、ここで、縄文犬がディンゴに近かったかの問題が出てくるわけ。縄文犬がディンゴに近いなら、東アジアも候補に入るのだ。つまり、日本犬の研究者頑張れってことです。何も言わないと、欧米の研究者は日本犬としては異例の秋田犬しか調べないぞ)
では、ここ最近の起源論争に関係するニュースを書いていこう。
(実はいくつかのニュースは、イヌの起源の議論の流れを踏まえずに書かれた、あおりのようなニュースであり、ここまでに書いてきた知識に、新しい情報や判断を付け加える物ではない場合もある)
- 2011年8月
まずは「イヌ科動物」(原文canine)という表現が曲者。イヌ科だとキツネまで含んでしまうし、イヌ類だとしてもイヌだけを指さずオオカミなど近縁種をすべて含む表現であり、これをイヌと訳してはいけないのだ。
しかも「家畜化の程度は低く、しかも古代や現代のオオカミ、ロシアの他地域に住む犬種との類似点もない。つまり他の犬種から派生したのではなく、独自の進化を遂げて人間との関わりを持ちはじめた可能性が高い。」とも書いてあるわけだ。
この家畜化的な形態変化は、ヒトの作り出した世界への適応による、ヒトのまわりに棲む動物一般に存在する適応変化ではないかと考えられる。(むしろ、動物の変化を調べることでヒトの歴史がわかる、という事実のほうが重要かも知れない。その時期のヒトの存在証拠になるのだから) - 2013年11月
これは、ヨーロッパのオオカミとの近さを調べていることが問題だった研究。
イヌとオオカミが各地でそれぞれ交配してる=比較すれば同じ地域のイヌとオオカミが近いだろうというのは、両者が交配できることのわかった時点で既に予測されてたことなのだ。
それに、ニュースの見出しの末尾が「?」とか「か」で終わるのは、そんなに信頼できるニュースじゃないのだよ。 - 2015年2月
これはイヌの祖先の物だとされていた骨が、オオカミのものだったという研究。(ただし論理としては、イヌの祖先であることを否定したわけではない)
最古の証拠は15000年前だという言い方からすると、ここで直接否定している骨だけでなく、この年代より古いイヌの証拠だとされるすべての骨が、実際はまだイヌとは言えないオオカミの範疇だと主張しているようだ。ここにはイエイヌの定義の問題も絡んでくるところ。確かに、イエイヌは穀物を食べ消化できるようになってから、その形態も適応によって大きく変化してるはず(ヒトと同じように!)で、ある程度の真理は突いているだろう。最終的には「定義の問題」だけれど。
これより前にこんな話もあった。2013年。
イヌとヒトは共に進化した | ナショナルジオグラフィック日本版サイトシカゴ大学を初めとする国際研究機関から集まった研究者らは、ヒトとイヌの遺伝子を調べ、複数の遺伝子グループが何千年にもわたり並行して進化していたことを発見した。これら遺伝子は、食事や消化、そして神経学上の作用や疾病などに関連するものだ。
研究によれば、ヒトとイヌの並行進化は環境の共有によって起きた可能性が高いという。この記事には「イヌの家畜化が始まった地域について、中東という従来の推定と異なり東南アジアとする」というのもある。ヒトの近くに棲むことによる適応を「家畜化の始まり」としているわけ。
- 2015年10月 (このへんからがニュースのメインディッシュ)
これは飼育犬種じゃなく、各地の"Village dog"(そこらへんの無名のイヌ)を中心に調べたもの。ボルネオ(インドネシア)のイヌのように明確に名付けられていないが気になる存在(ディンゴ類と推測できるが)もいたり、他の論文で見たことのないデータもあって面白い。
しかし何よりも気になることがある。それはこの論文の言う中央アジアが、ネパールとモンゴルであること。なんでそんなユニークな地域分けしちゃうかな……この研究、実際にはネパール起源説と呼ぶのが妥当。(まあ、生物学の専門家は地理学の専門家じゃないんで、地域分けは気をつけなくちゃいけない。なんでそんなところで地域を分けてるんだよってことがたまにあるので)
それと、古い者ほど周囲に散るように移動し、僻地に残る現象を考えると、結局は比較的普通のインド周辺起源と考えることも可能ではなかろうか。後の時代の動きの激しいところは、古い者がかき消されて残らないわけで。以下の図は論文から。Genetic structure in village dogs reveals a Central Asian domestication origin
ネパールが中央アジアになってることに、この図で気づいた。(インド集団が散っているため、インドの延長にも見える。というか地理的にそう見るべきだと思うのだが。あとは、ブータン・チベット・ミャンマー・ラオス・雲南あたりの、「アジアを舞台とした起源問題で、結局いつでも問題になってるインドと中国の間の地域」+αを調べるとどうなるか、か)
この図を見ると、ネパールとモンゴルをまとめたくなる気持ちがわかる。
こっちの図だと、起源地はインドから東南アジアという定番の解読になると思われる。 - 2015年12月
ヘッダーは中国と書いてあって違う地域のように見えるが、実際は「東アジア南部(英文だとsouthern East Asia。これほとんど東南アジアだよな)のどこか」と書いてあって、結局上の記事でも問題になった中国西南方面の、インドとの間が気になる話になっている。(これもミャンマーとかは調査してない)
なお、これも中国の"indigenous dog"(無名の地イヌ)を調べてる。以下の図は論文から。Out of southern East Asia: the natural history of domestic dogs across the world
ま、結局最近本命として意識されてるのはどの論文も東南アジアだと思われる。ただし、この段階は家畜化ではなくてその前段階の適応状態に当たるだろうけれど。
起源論でいつも問題となる、インドと中国の一部も含む東南アジア(インドシナ)地域。(イネ・ソバ・サトイモ・茶・蚕・ニワトリ・ブタなど*3)
NOAAのBathymetric data viewerの画像を使用し、自分で日本語の地名を追加。なお、照葉樹林文化論に雲南省を中心とした地域を指す東亜半月弧という言葉がある(この地域は日本人学者が得意とするフィールドだ)が、古い起源問題を追及する場合は、もっと南寄りか高度の低い別の地域を意識することが多くなる。
考えているのが氷河期ならば、当然その寒さによる気候環境の変化を考慮する必要があるからだ。
(チベット高原などの高地は山岳氷河も発達した不毛の大地となるため、後のチベット人など高地に住む民族や野生動物たちも、もう少し環境の良い場所にいただろう。まあ、現生人類はデニソワ人を不毛の高地に追いやって滅ぼしてしまったかも知れないが)
(気候が寒くなる→山の周辺で快適に過ごせる場所が減って、ヒトと動物たちの集中と出会いと衝突が多くなる、といった想定をするのも一興。氷河期が終わると今度は海が上昇して陸を呑み込むが) - ついでにもう一つ。2016年3月。
12460年前(やけに細かい数字だ)のシベリアのイヌは何を教えてくれるのだろう?
- 6月追加の新しいニュース。遺跡の骨と地イヌ(インドと中国に、チベットとベトナムが加わってる)の研究。
産経の記事はwiredだからこんなところか。
よくあることだが、だんだんサイエンスマガジンの元の記事と違うニュアンスになってるから、そこはツッコんでおく必要がある。
そもそもヨーロッパとアジアだけで家畜化されたと言ってるわけでなく、家畜化が一度きりでなく、アジア以外でも独自に家畜化されたのではないか、という主張なのだ。
さらに元の論文もサイエンスにある。
Genomic and archaeological evidence suggest a dual origin of domestic dogs | Science
タイトルに"dual origin"という、なんだか日本人の見慣れた言葉が使われていたり。サイエンスの記事でSavolainen先生(2015中国起源説)とWayne先生(2013ヨーロッパ説)がコメントしてる。Wayneは「まだ答えは混沌としている」、Savolainenは「素晴しいデータだが、1000年だと誤差の範囲」「ヨーロッパの古いイヌのルーツもアジアの可能性がある」(意訳)みたいなことを言ってる。
これはSavolainen先生のおっしゃる通りで、こういう年代は誤差が結構大きいためそれほどはっきりしたことが言えず、古いヨーロッパ犬種のルーツがどこか指し示す情報が発見されたわけでもないわけだ。
それにこの問題は、どこからイヌとするかの定義次第で答えが変わるため、決着が難しいところもある。イヌ化の始まったイヌの祖先が、各地に拡がって各地で飼育され始めたとすると、イヌの基準の置き方次第で答えも変わってしまうのだ。
*1:ニューギニアンと書かれる場合も多いが、国立環境研究所の侵入生物データベースhttps://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/10160.htmlはンを付けないで書いてる。英語でもnの付かないNew Guinea Singing Dog表記がほとんどだろう。
*2:シラミには、コロモジラミの分岐年代からヒトの衣服の起源を推測した有名な話がある。http://nichisenku.jp/column/tsunoda08/
*3:アワの出た古い遺跡も河南省にあるが、元はこの外側の地域か。アワの原種は日本でもおなじみのエノコログサ(意味はイヌの子の草。漢字で書くと狗尾草。別名だとネコジャラシだが)。ちなみに、中国の穀物起源神話ではイヌが重要な役割を果たしている。