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知識探偵クエビコ

人類史・古代史・神話の謎を探ったり、迷宮に迷い込んだり……

ベルクマンの法則への疑問/想像を超える適応の速さ

遺伝学 生物

ベルクマンの法則は現実世界で本当に成立するのか?

発熱して体温を高温に保つ動物の場合、同種か近縁種の間で、寒い地域ほど体が大きく、暑い地域ほど体が小さくなる傾向がある」
理由:同じ形であれば、体が大きいほど体重あたりの体表面積が小さくなり、それだけ冷たい外気に晒されることなく、体温を保ちやすい。
(同じ形であれば、体表面積は長さ×長さとなり、体重は長さ×長さ×長さとなる。例えば長さが2倍になれば、体表面積は4倍となるが体重は8倍に増えるため、それだけ外気に触れないことになる)

 

 これがベルクマンの法則である。

 しかし、現実の世界でこの法則が成立しているかと言えば、微妙な場合が多い。

 まず、体の大きさは直接的にその動物の力の強さとも関わり、それが生存の有利不利と結びついている

 温度が生存と無関係だとは言わないが、しかしこのベルクマンの法則は「同種か近縁種の間」という条件もついている。
 実は、ここで本当に要求されているのは種の問題ではなく、同じ形と同じ生態であり、大きさと気温以外の物理的条件を揃えることで、純粋に大きさと気温だけの比較にしようとしているはずなのである。だからこそこのベルクマンの法則は、予測ではなく法則と呼ばれるはずなのだ。(つまり、法則であるために本当に要求している条件を考えれば、条件の付け方が間違っているのではないかと考えられる)

 つまりベルクマンの法則とは、本来が非常に理想条件的な法則であるはずなのだ。

 

 また、現実に温度の移動を考えるなら、理論的にも、この同種条件や恒温動物の要求にごまかされず、しっかり考えるべき重要な要素がある
 私はこれからその話をしよう。

 

 

 この問題は、クジラなど海に生きる海棲動物や、ポリネシアの海洋民族を考えた場合にはっきりあらわれてくる。
 実は彼らは、「高緯度地域での寒冷地適応説」に待ったを掛ける存在なのだ。

 

 重要なのは、水と空気の性質(物性)の大きな違いである。
「30℃の水は冷たいが、30℃の空気が暑いのは何故か?」、なのだ。

 なおこの30℃という問題設定は、私たち哺乳動物が発熱する恒温動物で体温がほぼ30℃後半の一定値に保たれていることと関係している。そのため、望ましい温度の違う生き物の場合は温度設定を変える必要がある。


 まずはである。
 水は空気より遙かに熱伝導率(温度の移動する速さ)が高く、かつ比熱容量(温度を変えるのに必要な熱量)も大きく、結果的に熱を常に効率的に奪う。そのため、効率を求める原子力発電所での冷却にも使われるわけである。
 水(海など)は熱帯であっても水温が30℃ぐらいなら体温以下であり、体の熱を常に効率的に奪う存在である。(なお、体温を超える温度の水ならば逆に体温を効率的に上昇させる)

 またさらに、水など液体は蒸発時に気化熱も奪う
 だからこそ私たちは、たとえ気温が体温以上の環境であっても、汗をかいてそれが乾くことで体温を下げることができるのだ。
 植物もこの気化熱(蒸散)を体温を下げるために利用している。動けない植物が高温と強い直射日光のもとで煮えてしまわないのも、この気化熱のおかげである。


 ところが空気の場合、水と逆に熱の移動を妨げる断熱性を持つものであり、防寒にも使われるわけである。
 そして空気の入れ替わらない無風状態または衣服を着て空気入れ替えを防いだ状態では、汗も空気が水蒸気で飽和して乾かなくなるのだが、そこでさらに私たち自身が常に発熱しているため、気温が体温に近くなるとその発熱を排熱する方法がなくなって、体温を下げることができなくなってしまう
 それで30℃ぐらいならまだ体温以下の気温であるにもかかわらず、暑い状態になるわけである。(ただし砂漠のような環境の場合、汗が乾いてくれる限り排熱できるわけだ)

 また、空気にこの断熱効果があるからこそ、ヒトは寒さを耐えるために衣服を発明し、着ているのだ。
 そして動物の体毛も、空気の断熱効果を利用しているのだ。

 

 つまり海洋民族であれば、むしろ海水に対する適応によって、放熱を少なくする「水に対する寒冷適応」(もちろん水が冷たければその必要性も大きく増す)も起こり得る、わけである。

 実際、寒冷地適応とされる現象の中には、「体毛が薄い」という、寒さへの適応としては非常に違和感のある項目も入っている。
 それこそが水への適応証拠ではないのだろうか?

 

 なお私は、寒さに対する適応を否定はしない
 ただ水と空気の物性の違いは大きく現実に生物は一般的にその物性を大いに利用して、まさに体温調節に使っているのだ。

 ところで、ベルクマンの法則 - Wikipedia(2016/4/09時点)のホッキョクグマの例は、ヒグマなどと違って海に潜ってエサを採る海洋性を持った生き物なのだから、ベルクマンの法則を語る例として不適当である。
 もう一つのシカの例は比較対象が小さな島であり、これはこの後説明するフォスターの法則に該当するためこれも例として不適当である。
 つまり、日本語版wikipediaはまともな法則例が挙げられていないのだ。
 ベルクマンの法則は本来条件を揃えることを要求しているのだから、本当に適切な例を探すには、もっと条件の揃った場合を探す必要がある。
 英語版wikipediaなどは汗をかかない寒い地域でほぼ同じ生態の動物や民族の比較を書いているわけだ。

 

 

 その他にもベルクマンの法則には問題となることがある。
 そもそもベルクマンの法則は、暑い地域で体が大きくなることを否定できるほどの法則ではない
 最初に述べたように、体の大きさによる有利不利は根本的に保温以外の要素がずっと大きいのだから、食べ物があるなら、どんな地域でも体は大きくなるだろう。

 もちろん食べ物の量には制限があるが、寒い地域でも現実に体を大きくしようとするとたくさん食べなければならないのだから、結局寒い場合でも食べ物の制限はあるのだ。すると現実に、寒い地域にたくさんの食べ物があるのかという問題が出てきて……

 

 また普通の環境では、暑ければ暑いほど、排熱こそが難しい。
 活動すれば熱は必ず発生するものであり、どうやって排熱するかが問題となるのだ。
 しかし排熱に関して、体のサイズを小さくするような適応が現実的にあり得るかは(体の大きさは力と直接関係するのだし)大きな疑問である。
 そもそも地球上で暑い地域の気温は体温を超えるため、この本当に排熱の必要な局面では、体を小さくする適応をしても逆効果なのだ。この場合気温のほうが高いのだから、むしろ熱い外気に触れないほうが体温も上がらなくて済むのである。

  実際にはこの場合もやはり、現実に生物が体温を下げるのに利用している水(汗)を考慮することが必須となる。体温を下げるならより効率的に気化熱を利用すべきなのだ。

水と空気の物性の違いは、現実に生物が体温調節に利用するほど圧倒的なのである。

 

ヒトの温度環境については、ガチで研究してる人たちがたくさんいるはずだと探した。(本当は本を探したかったが、関係する話があちこちにあって、望む内容によって分野の選択と難易度のレベルが変わってくる)

 ヒト以外も含めた話ならば生理学。(体温調節系、で検索して探し出した)
 https://sites.google.com/site/kanosuelab/kougi-rejume/kisoseirigaku01-taionchousetsu

 体温調節の研究者。次のアレンの法則にも関わる、ネズミの尻尾での熱放散のコントロールの話をしている。
 早稲田大学研究者紹介WEBマガジン

 ナースのサイトにも説明があった。(なぜ体温37℃ぐらいがいいのかも書いてある)

 なお、ここに汗をかく恒温動物はヒトだけって書いてあるけどこれは完全に間違い。

 体温計のテルモにもあった。人はエネルギーの75%を体温維持に使ってるとか。
 なぜ体温は37℃なのか?|体温の基礎知識|体温と生活リズム|テルモ体温研究所

 日本熱物性学会。人体熱モデルを考えて、実験したり計算式立ててるpdf。後半では服を着ることも計算されている。
 http://www.netsubussei.jp/group/takada4.pdf

 やっぱり、人体熱モデルのソフトウェアもある。(概要を描いた絵を見ると、何が計算に入っているかわかりやすい)
 JOS(人体熱モデル)の開発背景 | 解析事例・インタビュー | 熱流体解析| ソフトウェアクレイドル

 とりあえず「体温調節」で本を探してみるとこうなる。

 まあ、ベルクマンの法則は古臭すぎて、熱に関係する要素の本当に一部分しか見ていず、まだ体温調節を考える場合の基礎レベルに到達していないって事だよ。

 

 アレンの法則

 なお、アレンの法則「(ベルクマンの法則と同じ限定条件+)寒冷な地域に棲息する生き物は、体表面積を小さくするために突出部分が小さくなる」も、やはり水と空気の物性の違いを踏まえる必要がある。もちろん気温が体温を超える地域では同じように方向性が逆転するはずである。

 ただしこのアレンの法則は、気温が低い場所で体を大きくすることを要求したりせず、また気温が高めの場所でも体自体を小さくするような適応を要求していない。
 そのため、食べ物の多さを要求せず力の強さにも影響しない適応となっており、現実的にはベルクマンの法則よりずっと実現しやすくかつ観測しやすいのではないかと考えられる。

 この二つの法則は、条件が似ているだけで全く同列ではないのだ。

 

 とはいえもちろん、このアレンの法則も現実の世界では万能ではない。

 先ほど言及した体温調節の研究者は、突出部分の血流をコントロールすることに依る体温調節を語っている。突出部分に血液を流さなければ放熱は抑えられるのだ。逆に言えば、熱の必要な場所にだけ(あるいは排熱するために)血液を流すことができるのだ。つまりこれも、温度を効率よく運ぶ水の物性を利用し体温をコントロールしているのである。

 生き物の体はその内部においても、温度調節のために水を利用しているわけだ。

 私たちの感じる血の温かさは幻ではないのだよ。

 ベルクマンの法則やアレンの法則は、文字通りに血の通っていない卓上の理論なのだ。

 

フォスターの法則

 この他に体の大きさを決定する法則として、「陸上動物は島のような限定された環境で、食料が限定され体を大きくする必要もないため小型化する」というフォスターの法則もある。(虫のようにもともと行動範囲の狭い小型動物を除く)
 ところがこれも、南方の島に棲むポリネシアの海洋民族が、まさに海に生きて海洋資源に恵まれることで、より逆の大型化の方向に適応していることを意味しているのだ。

 

 このフォスターの法則に従っていると見られる存在に、フローレス原人がいる。

 次の海部陽介さんの記事もフローレス原人だから、このフォスターの法則(島嶼化)の話がある。

 ところがフローレス島では、肉食である鳥のハゲコウ(Leptoptilos robustus)が、島のサイズの限定は受けず逆に大型化した(飛べないのではないかとも予測される)という。

 

国立科学博物館にて常設展示されている実物大に復元されたフローレス原人と、同原人が居住していた島にて共存していた動物たち。フローレス原人の後ろに移っているのはゾウの絶滅種(ピグミー・ステゴドン)、トリの絶滅種(ハゲコウの仲間)、コモドオオトカゲジャイアントラット (写真提供:国立科学博物館)

 マイナビニュースのほうの記事に説明付きの写真があった。この写真の出所は、すべて日本の国立科学博物館の展示だ)

 これ、ハゲコウのほうがフローレス原人より食物連鎖で上にいるのか? ティラノサウルスみたいな。ただこの場合、フローレス原人が本当に体を大きくする必要がなかったのかが問題になる。体が大きければ捕食されないということになるから。逆にハゲコウは、捕食するためにこそ巨大化したのか?

 

想像を超える適応の速さについて

 この適応と呼ばれる現象は、私たちが直感で想像する以上に速いものだ。
 実際に計算して確かめてみよう。

 より良く適応している側の子孫の増加率が、他の集団より10%多い(各世代で1.1倍になる)とすると、同じ数が10世代後(子供を平均25歳で作ると仮定してたったの250年程度)には単純計算して約2.6倍に増える。
 増加率が20%多ければ10世代で約6.2倍、30%で約14倍、50%なら約58倍になる。

一世代あたり増加率 ^ 世代数 = 世代を重ねた増加率
      1.1  ^  10  =   2.59……
      1.2  ^  10  =   6.19……
      1.3  ^  10  =  13.79……
      1.5  ^  10  =  57.67……

 これが100世代(およそ2500年)の計算であれば、子孫の増加率がたったの1%多い(1.01倍)だけでも同じ数が約2.7倍に増え、2%で約7.2倍、5%で約130倍、最初計算した増加率10%でも約14000倍となる。

一世代あたり増加率 ^ 世代数 = 世代を重ねた増加率
     1.01 ^ 100 =   2.70……
     1.02 ^ 100 =   7.24……
     1.05 ^ 100 =  131.50……
     1.10 ^ 100 = 13780.61……

 世代を積み重ねる効果は強力で恐ろしいものなのだ。

 この計算式は複利計算でも登場する。この計算条件を極端にしたのがネズミ算である。
 適応とはネズミ算的な複利効果で働く物であり、だからこれほど速いのである。

 逆に言えば、長い年月を経て現在まで生き残っている者たちは、すべて各地域ごとの適応と選択の洗礼を乗り越えた適応者なのだ。
 もしも増加率に少しでも差があったらとっくに数で大差を付けられているはずなのだから、数の差がないのは適応に差のない証である。
 古い者たちほど、数多の競争や過去の激しい自然災害や環境変化を乗り越えてきている、いわば老舗なのだ。

 

 なお、肌の色の濃さも日照量に対する適応である。日照量によって黒い肌が有利だったり白い肌が有利だったり、日照量によって有利不利が左右され分布が決まってくるのだ。

 一見逆説的だが、だからこそヨーロッパのC1a2La Branaが黒い肌であっても、(Y染色体に肌の色と関係する遺伝子が存在しないらしきこともあり)別に構わないのである。

 何故なら、日照量の少ない北の国で肌を白くする遺伝子が子孫を残す確率に影響するなら(現実の増加率のデータは持ち合わせていないが)、世代を経てその遺伝子の持ち主が自然選択され続けることで、数千年もたたないうちに肌は白くなるのである。

 増加率の違いはほんのわずかでいいため、適応速度はやはり想像以上に速いと考えられる。
 そしてこの適応の速さは、肌の色による古い人種分類を簡単に否定し崩壊させるわけだ。数千年の適応の結果で(増え始める最初のきっかけとなる遺伝子は必要だが)簡単に肌の色が変わってしまうのだから。

 この、自然環境に対する適応によって必然的に決まってくる分布を、そのまま適応分布と呼ぶ。
 適応分布は、遺伝子の移動を表す物ではなく、その遺伝子が働いて発現した形への環境への適応の結果を表す物である。

 ある分布を見ても、それが遺伝子の持ち主が移動した結果を表しているのか、環境への適応の結果を表しているのか、見定める必要があるのだ。

 また、適応の影響が非常に強いため、移動を調べたいときには、適応によって決まってくる要素を考慮しなければならない。遺伝に適応を左右するような効力があると増減に影響してしまうため、分布をそのまま移動とは受け取れなくなるのだ。
 そのため、遺伝的には意味のない(と考えられる)領域を取り出して比較することもある。

 たとえば遺伝子の全比較は、一見その方が良さそうに思えるけれども、そこには環境への適応で決まる要素が含まれてくるため、(いろいろな要素の総合にはなってくれているが)適応の結果を含んだ分布になってしまっているわけだ。
 免疫細胞なども、特定の病気が流行することで免疫を持たない人々を片っ端から殺してしまう可能性もあるため、(まさに鎌状赤血球の分布のように)その病気への適応結果だったりするわけである。