知識探偵クエビコ

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中国紀元前1920年の洪水証拠

米科学誌サイエンス(Science)に発表された研究結果によると、大洪水が発生したのはこれまで考えられてきたよりも数百年遅い紀元前1920年。これは、禹(Yu)王による夏王朝樹立の時期が通説よりも遅かったことを意味し、この発見により歴史が書き換えられる可能性がある。

 

元の論文はここです。

Outburst flood at 1920 BCE supports historicity of China’s Great Flood and the Xia dynasty | Science

 

面白いっすね。

中国では、夏商周年表プロジェクトというやつで、の始まりは紀元前2070年頃、としていたわけですが、どうもこれで150年以上は遅くなりそうだ。

紀元前1920年あたりで特に巨大な洪水が、黄河上流ではあったということは、その時点でそれまでの文明は大被害を受け(壊滅したかも知れない)、そのあと再始動した、ということになるだろう。

論文にこんな表が付いてます。
f:id:digx:20160806115312j:plain

 

もちろん、この巨大洪水と、夏や禹を直接結びつける証拠がある訳じゃない。

個人的には、夏と禹の存在はあると思ってます。伝承通りじゃなくても。

 

この巨大洪水が、大きな洪水伝承の元とはなるだろうが、禹がその直後に治水した証拠にはならないし、それが禹自身の存在証拠になるわけでもない。

また、最大の洪水と、禹の治水したタイミングが一致するわけでもないはずだ。

大洪水が人々の記憶に残っていて、洪水を防ぐために治水するものだとしても、その記憶の洪水が極端に年代の近い必然性はない。

それに、たとえしっかり治水をしたとしても、想定を超えるほどの巨大洪水はあり得るわけだ。

 

まあ、禹は巨大洪水よりは後の存在でないと、伝承のつじつまが合わないとは思う。

夏も、そこで滅んだり断絶していそうな状況になりそうだ。

すると、この紀元前1900年あたりから後が、夏の始まりの時期だということになる。

 

それと、「治水をした」というのなら、確かその下流地域で洪水被害が減ったという考古学証拠が欲しいって事になる。

ある時点まで洪水が多くて、ある時点から洪水が減ったのなら、そこが治水をしたタイミングだろうということになるんだから(ただし洪水自体にも気候変動の要素がある)、もっと下流の中華平原の洪水情報が欲しい。

なお、治水工事自体の証拠が残るのは難しいように思う。洪水で破壊されるだけじゃなく、より後の治水工事によっても過去の状況がわからなくなるものだ。

 

今後の研究の進展を期待します。