知識探偵クエビコ

人類史・古代史・神話の謎を探ったり、迷宮に迷い込んだり……

Y染色体で探る日本人の起源 3.日本人の構成

日本人のY染色体ハプログループ構成

 まずはデータをお見せしよう。
 wikipediaの日本人にあるデータをそのままコピーしても面白くないため、元の論文の確認をしたついでに、別の論文からのデータ追加というついで以上のことをして合算データを作成した。

 既にが日本人の三分の一強などの話をしているが、その元になっているのがこれらのデータである。

日本人のY染色体ハプログループ構成グラフ(人口比換算)
f:id:digx:20160430172913g:plain

日本人のY染色体ハプログループ構成(パーセント比)
  D1b C1a1 C2 O1a O1b1 O1b2*(x47z) O1b2-47z O2 N サンプル数
北海道
札幌+旭川+N
42.3 2.9 5.6 1.0 1.7 7.6 17.7 17.6 0.6 3.1 712
508+201+3
東北
青森+N
35.6 6.7 0.0 4.4 0.0 6.7 26.7 11.1 6.7 2.2 45
26+19
関東
川崎+N+東京茨城
37.2 4.4 5.5 1.2 0.5 8.3 24.6 16.6 1.1 0.5 565
321+137+57+50
東海甲信
名古屋+静岡+N
32.9 5.0 1.7 2.3 0.3 11.3 22.3 21.9 0.7 1.7 301
207+61+33
北陸(越)
金沢+N
32.4 3.9 6.3 1.3 2.0 10.5 20.3 20.1 1.7 1.5 543
530+13
関西
大阪+N
31.5 6.2 6.9 1.2 0.8 10.4 18.8 20.8 1.9 1.2 260
241+19
中国
山口+N
30.0 3.3 5.0 6.7 0.0 5.0 20.0 30.0 0.0 0.0 60
44+16
四国
徳島三論文+N
28.5 6.4 6.9 1.3 2.3 9.0 23.0 19.3 2.3 1.1 534
398+70+57+9
九州
長崎+福岡+H+N
30.8 3.4 6.2 0.4 1.1 9.4 24.6 20.9 1.5 1.3 468
300+102+53+13
沖縄
二論文合計+N
45.1 6.8 1.5 0.8 0.8 6.0 17.3 18.8 0.0 3.0 133
87+45+1
全体
アイヌ限定データ除く
34.7 4.5 5.5 1.3 1.3 9.0 21.4 19.3 1.3 1.6 3621
人口比換算 34.2 4.8 4.9 1.8 0.7 9.0 22.6 19.1 1.6 1.2 単純合計せず地方別人口比換算
アイヌ限定 89.5 0.0 10.5 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 19
参考・韓国 1.6 0.2 12.3 2.2 1.0 22.5 8.9 44.3 4.5 2.6 506

O1b2-47z(ハプログループO1b2a1a1)の47zは変異のラベル*1である。
またO1b2*(x47z)はこの変異47zがない、それ以外すべてのO1b2下位系統を意味している。
なお、データ作成方法及び参照した論文については今回の最後にまとめて記す。
2016/12/21アイヌ更新 別室β版

データの解説
  • 全体」は単純合計による比率で、「人口比換算」は日本の2010年国勢調査を参照した地方別男の人口比に従った比重をもって日本全体の割合を算出したもの。日本全体の状況を出すには人口比換算するのが正しいが、サンプルの少ない地方の誤差が拡大されるという注意点がある。
  • アイヌを個別に調査したデータは北海道にも全国にも含まず別枠とした。ただサンプル(19)も人口も少ないため全体の統計に含めてもそれほど数値に変化はない。
    また、北海道全体のデータにも存在比率なりのアイヌの子孫(自覚の有無に関わらず)がちゃんと含まれていて、それが北海道のDの多さに結びついているのだと考えられる。*2
  • 場所の偏りとサンプル数に注意。四国は徳島だけ重点的で九州は全体データでも南九州があまり入っていない。東北と中国地方は(この両地域でユニークな数値は出ているものの)場所の偏り*3以前にサンプルが少なく、それほど信頼性の高いデータではないのが本当に惜しい。
  • 実は地形的にも離れた南北両端を除けば、全般的に地方による差が少ない。特にの数値の地方差の少なさは面白い。また系統など少数派も意外と全国に満遍なくいるらしい*4こともわかる。イギリスとかの移住の傾向*5がはっきり見えるデータと比べると、本当に差がない)
    特に少数派の場合、特定の一族や集団の動向の影響が強く出て、特定の場所に集中していたり、ちょっとした偶然だけでどこかの地域集団からいなくなったり、むしろたくさんいる人々より存在は偏りやすいはずなのだ。(※現在のデータにあまり入っていない地域に集中がある可能性はまだ否定できない)
  • 後から移住してきた系統であるは合計すると確かに半数を超える。もちろんには下位分類が、O2系統の下も含めて大量にあり、その構成がアジアの各国でまちまちである。参考として付けた韓国のデータ(このデータはwikipediaにない)と比較してみていただきたい。
  • 特にO1b2-47zでも日本に多く韓国に少ないという特徴を持つために注目されたラベルである。この47zは面白いことに、わずかな差だが関西など中央(つまりヤマト政権の中心地)も少ないというドーナツ化の傾向を示す。つまりこれは47zが九州に多いというデータではなく、実は東に進むと(もちろん北海道は別だが)比率は増えていたのだ。
    なおO1b2*(x47z)も、47z以外のありとあらゆるO1b2系統すべてであるため、必ずしも韓国に同じ系統がいるとは限らないことに注意。また境目としても47zが一番良いとは限らない。
  • こちらにも書いておく。は多少数え漏れがあってその他に含まれているようだ。詳しい事情はデータの注記に記す。
    ちなみに日本の場合、その他にはが含まれている場合が一番多い。また今回の分類の場合、稀にいるD1bでないもその他に入る。あとは沖縄だとが出たり、他のアルファベットもたまに見かける。

お願い。利用できる日本人のY染色体データの情報求む!

 この表その他は今後も更新する予定。

 詳細なデータが多ければ、中部地方を北陸(ただし金沢に偏る)と東海側(ただし三重は関西に含む)に分けたようなことも可能になる。

 さらに将来的には、それぞれ地方別に細かく語ることも可能になる、はず。

 

 さあ、どうやって人々が日本列島にやってきたか、次から探っていこう。

 まずは氷河期が終わるまでにやってきた、最初の人々だ。

 

Y染色体で探る日本人の起源』 目次

 0.プロローグと案内

 1.知識編

 2.世界のY染色体

 3.日本人の構成(今いるのはココ!)

 4-0.まずは時代の定義

 4-1.氷河期が終わるまでにやってきた人々1 D

 4-2.氷河期が終わるまでにやってきた人々2 C1

 4-3.氷河期が終わるまでにやってきた人々3 C2(旧C3)(ただいま制作中! 近日公開)

 5.その後やってきた人々(ただいま制作中! 近日公開)

 6.混合民仮説(ただいま制作中! 近日公開)

 

データ作成のために引用した論文
 基本的にはwikipediaの日本人の項目と同じ論文を参照し、さらに別の論文と使用されていないデータを含めて合算している。

 

*1:現在この47zの変異ラベルは使用されておらず、CTS713などが使われる

*2:ちなみに私は、少し多い北海道の「その他」に、アイヌ単独を調べていてもなかなか出てこないぐらいに低比率の北方系が含まれることを期待している

*3:データの多いのが、三内丸山遺跡の青森と、土井ヶ浜遺跡の山口だから、むしろ偏っていて面白い部分もあるが、中国地方は出雲とか吉備とかも重要なわけ。

*4:ゼロが見えるのはサンプルの少ない東北・中国と沖縄だけだが、サンプルを増やせば見つかる可能性が高いと思われる。

*5:ケルト系がR1b-L21、ゲルマン系R1b-S21、イタロケルト系R1b-S28。これらR1bもまとめてしまったら傾向がわからなくなるため、日本も細分化すると別の構図が見えてくる可能性はある

*6:どうも昔はを判別する変異マーカーが妥当じゃなく、それで多くのNO*が出ていたようだ。

*7:ただし最新の分類は既に昔未分類だったものを多数分類に含むため、もうどこかの分類に入るのかも知れない。

*8:β版は画像データだけは更新している。